第29話 紅茶と麦茶と緑茶
楽しそうにリビングを去った両親を見送ったあとは彼女としばらく脱力してしまった。
「すごいご両親だね」
「さすがに僕もあれが普通じゃない事は分かるよ」
「だよねぇ・・・」
ソファ前に置かれたティーセットを片付けようと立ち上がった。このティーセット今まで見た事無いけど買ったのか?紅茶を沸かすなんてうちでは殆ど無いしな。それに結婚式の引き出物とかで使わず置かれて居るこういったセットいっぱいあるとかで、小学校の時はPTAの主催するバザーに出品してたもんな、これはまだ残ってたものの中からでも見繕ったものなのかね?
食洗器に入れてスイッチを押すと起動を始める。いつの間にか隣に彼女が立っていた。
「ソファで休んでくれてて良いのに」
「洗い物手伝おうと思って」
「食洗器入れて回すだけだから大丈夫だよ」
「そうみたいね」
彼女の家は食洗器無いのかな?
娘にピアノや絵を習わせたり私立中学に通わせたりと、彼女も結構良いお家の人なのかなと思ったけれど違うのかな?
「冷蔵庫に飲み物あるみたいだから持って行こう」
「うん」
麦茶用のポットと氷を入れたアイスペールとグラスとグラス置きのセットを二つと菓子の入った棚から適当にクッキーを皿に盛り、それをお盆に乗せた。
「僕の部屋に行こうか」
「うん」
彼女を部屋に呼ぶ・・・非常にワクワクするシチュエーションだけど冷静を装って自室に向かった。部屋に入る時「入って適当に座って」というと「お邪魔しまーす」と彼女は言った。「邪魔するなら帰ってや!」と言い返さないといけない流れか?
僕の部屋はそこまで大きくない。
ベッドが壁際に1つあって小学生の時から使っている高さ調節の出来る学習机でその上にパソコンが置かれて居る。
彼女と勉強するために母親がパッチワークや小物作りの時に使っている座卓とそれ用の絨毯を運び入れ和室の押し入れに入れられ殆ど使われて居ない来客用の座布団を敷いただけ。そんな事をするぐらいなら和室で勉強すればいい?いや自室に招く事がロマンなんでしょ?だって和室って両親の親が来て泊まる時の部屋としか使っていないんだよ?なんとなく嫌でしょ?分からない?
「座卓と座布団は他から持ってきたから部屋が狭いけど」
「ううん、充分だよ」
彼女が扉の手前の席に座ったので僕はお盆を学習机の上に置き、グラスに氷と麦茶を注いで座卓に置いた。
「麦茶作るの早いね」
「えっ?うちは年中作ってるけど」
「うちは夏だけだよ」
「そうなの!?」
確かに麦茶は夏の飲み物というイメージがあるけれど冬でもホットで美味しいしいんだよ?
「へぇ・・・じゃあ冬は何を飲んでるの?」
「冬に限らず年中緑茶かなぁ」
「年中?急須から入れるの?」
「えっ?急須から入れないお茶って何?」
「ペットボトルのお茶」
「あぁぁぁ!うちペットボトルのお茶飲まないんだぁ」
「そうなんだ・・・」
「お父さんの実家が静岡で送って来るんだよ」
「静岡の人かぁ・・・なんとなくありそう」
「静岡の家に行くとしょっちゅうお茶の時間になるよ」
「そんなに飲むの!?」
「お父さんの実家だけかもしれないけどね」
「すごい実家だね」
「そうかも・・・。途中の道にお茶畑いっぱいあったし」
「お茶の国だなぁ・・・」
「そうだねぇ・・・」
考えてみたら昔はペットボトルなんて無かったんだよな。ペットボトルからお茶を飲むようにお茶を淹れていたら、しょっちゅうお茶の時間になるよな、小さな急須でお茶を作り、小さな湯呑で飲む感じだもんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます