第21話 チン

 彼女の家の近所の公園のベンチで少し話して僕達はさよならをした。

 話の中で僕は彼女の乗り込むバス停で待ち合わせて学校に行く事になった。

 彼女は大変だから良いよと断って来たけど、大変な時は連絡するからと言って応じて貰えた。野球部の朝練に毎日出ていた事に比べたら15分長く歩くぐらい大した事じゃない。


 分かれる時は少し名残惜しい気がしたけれど、それぐらいで別れるのが良いタイミングだと酔った親父が言っていたので正解なのだろう、高校3年の夏にお袋を垂らし込んだ凄腕なんだろうから。


 20分かかる自宅までの距離を指輪を見ながらニヤニヤして歩いて居た。

 スマホが震えたので見てみると彼女から「アサちゃんからのメッセージが凄い数!」とメッセージが来ていた。「僕の方は良いからアサカワに早く返してあげて!」と返事をしておいた。おのれアサカワ、念は届いていなかったか!


 家に帰り靴を脱いでいると、何故か両親がリビングのソファーに座り、対面側に俺に座れと目で訴えてきた。


「とりあえずおかえりなさい・・・」

「とりあえずただいま・・・?」


 何だ?改まって・・・と思ったら親父が一人差し指と中指の間に親指を挟んだグーを俺に突き付けてをブッこんで来た。


「うまくヤッたか?」

「ヤッてねぇよ!」

「やっぱりあの子なの?」

「・・・」


 墓穴を掘ったぁぁぁぁぁ。


「さすが俺の息子だ!」

「それでそれでどうなったの?」

「そんなのどうでも良いだろっ!」

「どうでも良くはないだろ!」

「お赤飯を炊かなくちゃ!」

「ま・・・まてっ!母さん!」


 今時お赤飯って・・・。それに親父は何改まったような顔をしている?


「・・・それで・・・2人は付き合ってるのか?」

「・・・」

「見てっ!この反応は付き合ってるわよ!」

「よくヤッたぞ息子よ!」

「ヤッてねぇよ!」


 その怪しいグーを突き付けて来るんじゃない!

 それにこの反応って何だよ・・・。


「それでな・・・」

「なんだよ・・・」

「俺達は若くしてお前を育てる事にとても苦労をしたんだ・・・」

「・・・」

「両親に勘当されるわ、母さんは大学受験を諦めるわ、俺も就職目指すわでな・・・」

「自業自得だな・・・」

「俺も母さんも体力だけはあったからな・・・それでも苦労したんだ・・・」

「インターハイ出場選手でしたっけ?」

「まぁな・・・」

「何だよ・・・」

「・・・母さん・・・言ってくれ・・・」


 態度を急に替え真面目そうな顔で得々と語る親父をウルウルした目をしてみていたお袋はカっとした様に目を見開き前のめりになると。


「あなた達に同じ苦労を味あわせたくないの!」

「母さんっ!」

「あなたっ!」


 何だよこのメロドラマ風のくだらないやり取り。


「それでどうなんだ?」

「今日交際のOK貰った」

「そうか・・・」

「うん・・・」

「頑張ったな・・・」

「うん・・・」


 おい・・・僕を泣かせる様な空気を出すな・・・今日涙腺緩めたから出やすいんだぞ・・・。


「それでいきなり結婚するのは早いと思うんだ」

「はぁ!?何の事だよ」

「あなたの指にハマってるものの事よ!」

「指輪ぐらいファッションで付けるだろっ!」

「えっ?・・・そうなのか?」

「分からないわ・・・」

「今の若者はそうなんだよ!」

「俺と母さんだってまだ若いんだぞっ!」

「そうよそうよ!さっきだってこの人2k・・・」

「おいヤメロ!」

「お前・・・」

「あなた・・・」

「もうヤダこの両親・・・」


 俺はソファから立ち上がると、イチャイチャを始めた両親をリビングに置き去りにして立ち去ろうとした。


「あっ!冷蔵庫に焼売の残りのあるからチンして食べてね!」

「ありがとうよっ!」


 ちなみにうちの電子レンジはあたため終了の音はチンでは無くピーという音だ。

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