第13話 待ち合わせ

 待ち合わせと言っても時間合わせは簡単だ、昔の人はスマホなんかを持っておらず、あらかじめ待ち合わせ時間を直接あったり固定電話などで連絡して決めていたらしい。

 集合時間に早く着き過ぎたり、誰かが遅れたりしても出先では連絡する事が出来ず、相手の状況が分らずイライラしたまま待ったそうだ。

今だとスマホで「あと5分でつくよ」、「3分だけ遅れる」これだけで済むので簡単だ。

 両親が読んでいたという本棚で背表紙が日光で退色した漫画を読むと、待ち合わせのカップルが「ごめーん待ったぁ?」、「そんな事ないよっ!」「今来た所さハニー!」なんてシーンが描かれているけれど、今の時代だと都市伝説の産物だろうなと思う。


「ごめん待った?」

「ううん今来たところ」


 居ましたここに都市伝説。

 あれぇ?3分ほど前に「今到着した」ってメッセージ送ったけど読まなかった?


「スマホのメッセージ送ったけど届いてない?」

「あっ急いで少し走ってたから気が付かなかった」

「まだバス来てないし大丈夫だよ」

「うん」


 彼女の私服は参考書を買いに行った本屋で再会したあの時以来となる。あの時は夏で、彼女は涼しげなワンピースに素足にサンダルという姿だった。けれどまだ肌寒い今日は、薄手のカーディガンを羽織り厚手のチェック柄のスカートを履き、下はストッキングにショートブーツを着けていた。


「再会した時の私服も良かったけど、今日の私服も可愛いね」

「えっ?ありがとう・・・」


 少し恥ずかしがらせてしまったか?

 でもデートの際はまず服装を褒めるべしって、回転寿司から帰っても酔っ払ったままの親父からアドバイスを受たんだ。けれど服装を褒めるためとはいえ上から下までジロジロ見たのは良くなかったかも。


「手を繋いでいい?」

「えっ?う・・・うん・・・」


 誤魔化すために突然言ったけど成功して良かった。

 やったぜと心の中で喝采をあげている。

 はぁ彼女の手が小さくてプニプニ。

 それに暖かくて少ししっとりとしている。

 いい匂い〜。

 そんな感情が渦巻いている。


 停留所のベンチに座って待っているとバスがベンチに居る僕達に接近を知らせるためかクラクションを鳴らせながら近づいて来た。片手でスマホ取り出し2人分と言って端末に翳して乗り込む。僕の都合に突き合わせて居るのに彼女に払わせるつもりは無い。彼女がスマホを取り出そうとして手が離れるのも嫌だしね。

 殆ど空席なので手を離さなくていい方の近い席に並んで座った。

座るとすぐにバスは発進した。


「空いてるね」

「日曜の朝だしね」

「そうだね」


 何気ない会話をしながらも握っている手と肩にかかる彼女の感触に意識を取られそうになる。

 思い切って手を恋人つなぎに変えてみたけど抵抗はなかった。


「お店の開店時間まで時間があるしどこかに食べに行こうよ」

「う・・・うん・・・」


 冷静に話しているように装って居るけれど心臓はバクバクしていた。こんな時間が永遠に続けば良いのにと思ったけれど、すぐに目的地である駅前の停留所に付いてしまった。




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