第11話 デートの約束

 楽器はとりあえず、僕がワタナベ先輩にギターを教わり、彼女がキーボード、アオシマがドラム、アサカワがベースという事が決まった。


 彼女のキーボードとアオシマのドラムはすぐに決まった。アサカワはピアノは無理やり習わされて弾けるけど、好きでは無いとの事でキーボードを彼女に譲った。

 クラシカルなピアノとバンドのキーボードは素人の僕には全然違うものに思えるけど、実際習っていたアサカワがそう言うなら同じもの?


「ヴァイオリンを弾けるなら弦楽器繋がりでギターかベース弾けるんじゃない?」

「じゃあベースでぇ」

「ベースにした根拠は?」

「楽器素人よりは覚えるの早いと思うしぃ、ギターはイザとなったらワタっち先輩に頼めそうだしぃ、1番の素人がギターで良いと思ったぁ。」


 意外とまともな答えが返って来た、それに珍しくアサカワが長文で話した。


「また失礼な事考えてているでしょぉ」

「そんな事はございませんよお嬢様」

「うわぁ~ん」

「お前絶対それやりたいだけだろ・・・」


 おい彼女に抱きつくな!と思ったけれど、アサカワを慈愛の表情で撫でている彼女が尊いのでホッコリとした気持ちで見守っておいた。


 その日から僕はワタナベ先輩から予備のギターを借りてコードの練習をする事になった。ギターと小さい箱をケーブルに繋ぎヘッドホンをすると音が聞こえる。ワタナベ先輩には「繰り返し練習?」と言われた。この先輩は言葉が疑問形になるみたいなので繰り返し練習しろって事だと思う。

 指が釣りそうになるけど、言われた通りに押さえて弦を鳴らすと確かにバンドの人が鳴らしているような音が響く。


「どれぐらい続けて練習するのですか?」

「最短3ヶ月?」


 なんで疑問形と思ったけど取りあえず先は長い事が分かった。


「自分にあったギターを手に入れた方が良い?」

「自分に合うって何ですか?」

「インスピレーション?」

「インスピレーション・・・」

「店教える?」

「良いんですか?」

「買わなくても取り置きして貰える?」

「いくらぐらいなんですか?」

「1万円から上は際限無し?」


 疑問形に疑問形で返される不思議な会話だけど内容は分かった。取り合えずワタナベ先輩お勧めの店を紹介して貰えるらしい。


「エレキドラムはあるけど本物のドラムを使いたいなら音楽準備室?」

「借りられるんですか?」

「使って居な時なら?」

「ベースとギターは無いんですか?」

「昔の部員が置いてったものがあるけど粗悪?」

「使えないんですか・・・」

「メンテナンスすれば使えない事もない?」

「へぇ・・・」

「弦は張替えが必要?」

「なるほど・・・」

「ピックは消耗品だから100枚はいる?」

「そんなにですか?」

「多い時は1月で使い切る?」

「なるほど・・・」


 電子ピアノとエレキドラムはギターと同じ様にケーブルでアンプという箱に繋ぐとヘッドホンで聞けて音を気にせず練習出来る。ライブではヘッドホンでじゃなくスピーカーに繋いで音を大きくするららしい。


 下校の時間を知らせる校内放送のあと淋しげな音楽が流される。終わり彼女と帰りが一緒になった。最近は赤面する彼女と顔を合わさないようにしていたし、彼女はアサカワと放課後は一緒に居たので、久しぶりに彼女とバスが一緒になった。

 僕は休日に彼女にワタナベ先輩が勧めてくれた専門店の買い物に彼女を誘えないかと思った。


「日曜に専門店に行くから付いてきて欲しい」

「・・・うん・・・」


 彼女をデートに誘うのは成功した。

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