第10話 フォーア

 放課後4人揃って軽音部の部室に行き入部届を出した。唯一の部員という入部届を受け取ったワタナベ先輩は「歓迎?」と言ったけど、気怠そうな雰囲気を持っていた。


 そのワタナベ先輩の話だと去年卒業した3年が4人居て、そのひとりが先輩の兄だったらしい。ワタナベ先輩は兄から廃部を避けるため入部してくれと言われて入ったという感じらしい。卒業生のバンドと一緒にサブのギターとボーカルをしていたから手伝いぐらいはすると言って、説明は終わりとばかりにヘッドホンを付けながらギターを弄りだしていた。ギターから殆ど音が聞こえないけど聞こえてるの?


「これからどうすりゃ良いんだ?」

「ん?担当パートを決める感じか?」

「そんな事言われても僕は楽器なんてリコーダーとピアニカぐらいしたことないぞ。」

「アカホリさんは?」

「ピアノとフルートぐらいしか・・・」

「アサカワは?」

「私はピアノとヴァイオリン弾けるよぉ」

「お嬢様だなぁ」

「まぁねぇ・・・」

「そうなの?」

「あぁ・・・こいつの家はそうらしいぞ」


 どうやらアサカワは見た目と違い、良いところのお嬢様らしい。


「今失礼な事考え無かったぁ?」

「いえ・・・そんなことはございませんよお嬢様」

「絶対考えてたぁ!こいつら酷いぃ!アカっち慰めてぇ!」


 おい彼女に触るな、と思わなく無いけど、アサカワの頭を優しく撫でる彼女の尊い光景に癒されたのでそっとしておく事にした。


「このままだとドラム、キーボード2人、ボーカル1人になるな」

「お前ボーカル出来るのかよ!」

「野球部で真面目に声は出してたから声量だけならあるよ」

「ボーカル関係ねぇ!!」


 楽器を使えない事を皮肉って言ったけどツッコミのキレいいなっ!?


「そ・・・そんな事より名前は決めないの?」

「名前って愛称?」


 彼女がアサカワを撫でながらコクコクと頷いている。彼女はどんな楽器をするのかよりも先にバンド名を決めたいららしい。


「アイっち、アオっち、アカっち・・・そうなるとウチはアサっちかな?」


 アサカワは彼女に撫でられながら、自分で俺達を指さして勝手に付けたあだ名を言い始めた。全員のメンバー名を決めるんだと勘違いしたようだ。


「メンバー名はそれで良いかもな」

「他に何の名前があるのぉ?」

「バンド名だよっ!」

「なるほどぉ」


 どうやらアサカワは勘違いに気づいてくれた。


「そんなら「ア」の苗字が4人だからアフォーでいいんじゃない?」

「阿保ってお前っ!」

「なにぃ?」

「気づけよっ!!」


 最近アサカワのボケとアオシマのツッコミの応酬がすごいと思います。僕の彼女(予定)も時々ボケキャラだし、僕もあえてアオシマ相手にボケるからアオシマが忙しそうです。


「アフォーアフォーアフォー・・・」


 彼女がアサカワの付けたバンド名を連呼している、カラスの鳴き声?


 俺はふと思いついて「フォーア・・・」と呟いた。

 熱い視線を感じて彼女を見ると僕をキラキラした瞳で見ていた、やめて下さい汚れた僕が溶けてしまいます。

 アオシマがウンウンと頷いていて、アサカワがやるじゃんといった顔をしている。


「えっ?これで良いの?」

「良いと思う!」

「良いんじゃねぇか?」

「いいですぅ」


 という訳で僕たちのバンド名は各々の担当が決まる前にフォーアに決まってしまった。良いのか?こんな簡単で・・・。

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