第6話 また同じだね

 リボンの色はクラスを表していた。赤い色のリボンはA組。つまり僕と彼女は一緒のクラスだ。冷静を装ったけれど心の中は歓喜で渦巻いていた。彼女に気持ちを伝えたいのでバレてほしいけれど、気恥ずかしくてバレたくないという矛盾したような気持ちだった。


  忍ぶれど 色に出にけり わが恋は 物や思ふと 人の問ふまで


  問われる前に彼女に告白する、それが僕の目標となった。


 入学式の時間が近いので生徒は指定の教室へ、親族は体育館へとアナウンスがあった。

 僕と彼女は談笑していた両親達に声をかけると一緒に教室に向かう事にした。親父が彼女の父親と少し距離がある感じながらも、とても笑顔で話しているから顔見知りなのだろうか?


 校舎の掲げられた案内の看板通りに進むと小さなロッカータイプの下駄箱が並んでいる場所に付いた、1のAを探して見つけると下駄箱には既に名札が付けられていた。上下に開くタイプなので他の生徒が下駄箱の蓋を開け閉めするバタンという音が複数聞こえる。

 出席番号順になっていて僕も彼女も男子と女子の場所の1番上の段の左側だった。背の特に低い彼女には1番上の段の下駄箱の箱の蓋を上に押し上げるのは少し辛そうに見えた。


 教室に行くとこれから1年はお世話になる生徒たちが居た。席順が書かれた紙が黒板に貼られていたので見ると、ここでも出席番号順になっていて、僕と彼女の席は窓際から1列目と2列目の1番前の席だった。

 小学校5年生の1番最初もこんな感じに並んでいた。あの時は彼女が窓際で僕が窓際から2列目と今回と逆という違いはあったけど懐かしい気持ちがした。


「また同じだね」


 思わずそう呟いてしまった。


「そうだね・・・」


 彼女も戸惑いながらだけど、そう答えてくれた。


 僕の後ろの席の男はアオシマという大柄な男で後ろの席のイヌイという線の細そうな男と話していた。アオシマは僕より40センチぐらい背が高そうだった。


 彼女の後ろの席はアサカワというモデルの様な体型をした少女で、席に座りスマホを弄っていた。


 アオシマとイヌイの方に声をかけ席にすわるとがアオシマが話しかけて来た。


「出席番号1番じゃないのは始めてだ」

「何だよそれ」

「小中ずっと出席番号1番だったからよ」

「なるほどな」


 そんな話をしたら。アサカワが吹き出して笑い出した。


「急になんだよ」

「ウチも同じこと思ってたんだよぉ」

「んだよ、お前も始めて2番だったか?」

「アサカワだからねぇ」

「まぁ「ア」から始まる苗字なら大概1番だわな」

「中学校の時にアヤノコウジって子が私の後ろにいたけどねぇ」

「あぁ・・・あいつかぁ・・・俺の後ろにはアラカキって奴がいた事あったな、沖縄からの転校生だったけど」

「へぇ」

「あっちは「ア」の苗字が多いらしいぞ。そいつは出席番号1番前になった事無いっていってたな」

「なにそれウケるぅ」


 後ろの2人は知り合いらしく「ア」から始まる苗字談議で盛り上がっているようだ。

 僕と彼女も興味深く聞いてしまっていた。


「それにしてもお前ら小さいなっ!」

「悪かったな!」

「いや、俺は体が無駄にデカいから前の席に座ると黒板が見えないって言われるんだよ」

「言えてる」


 背が大きいのにも悩みはあるらしい。


「お前らが後ろだったら黒板見えなかっんじゃないか?」

「私は目が悪いからいつも1番前にしてもらってたよ」

「おおそりゃ賢いな」

「僕の前の席がお前だったらすぐに交代な」

「あぁそれで良いぜ」

「私もお願いするぅ」

「目は良い方だから大丈夫だ」

「羨ましいなぁ」

「メガネ可愛いと思うけど・・・」


 思わず呟いてしまった。一瞬沈黙が起きたあとアサカワが突っ込んできた。


「二人って良い感じぃ?」

「そういえばお前ら一緒に入って来たよな」

「・・・良く見てたな・・・」


 話題を変えようと抗ってみた。


「目は良いんでな」

「なになに、2人は付き合ってるのぉ?」


 アオシマは引っかかったけれど、アサカワには通用しなかった。僕は作戦を変え誤魔化す事にした。


「小学校の同級生だよ」

「おな小かぁ・・・」

「ウチらは一応おな中ぅ?」

「一応な」


 オナ・・・いや、アオシマとアサカワは同じ中学校出身らしい。


「両親同士が知り合いだったらしく校門で合流する事になったんだよ」

「そんなもんか」

「私なんてチビだしメガネだからアイカワ君の彼氏にふさわしくないよ」


 彼女がとんでもないことを口にしたような気がする。


「僕もチビで坊主だよ」


 だから思わずフォローした。


「お前らお似合いだなぁ!」

「付き合っちゃうぅ?」


 アオシマとアサカワが非常に魅力的な提案をしてきた。


「考えとくよ」


 けれど僕はヘタれて、横を向いて答えた。


「この子顔真っ赤ぁ」

「こいつもだぜ」


 僕の顔が赤くなっているらしい。

 どうやら彼女も赤面しているようでアサカワにからかわれている。

 きっと2人はニヤニヤしているだろう。

 問われる前に告白する計画は15分も経たず音を立てて崩れてしまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る