第2話 初恋の自覚
鳴かず飛ばず立った野球部を夏休み前に引退し、高校受験に集中する事となった。けれど成績が振るわずこのままではあまり良い噂の聞かない近所の私立高校か、少し離れたこれも評判の悪い公立高校のどちらかを選ぶ事になりそうだった。教室も後ろから消しゴムを小さくした物などを投げつけられたりと最悪なので、元々頭の良くない僕では授業に集中出来ず頭に入ってくれなかった。
ある日、少しでも家で成績を取り戻そうと参考書を買いに駅前の本屋まで出かけた。本屋から出ると後ろから小さな足音が聞こえて来て、フッと鼻先に甘い匂いが掠めたあと、どこかで聞いた事がある声が聞こえた。その声は小学校の時のあの彼女だった。
「久しぶり」
「?」
「覚えていない?私小学校の時一緒だったアカホリだよ」
「あぁ!アカホリさんか、メガネかけてたから分からなかったよ」
「あっ!そうだったね!中学校に入ってから急に視力が落ちたんだよ、ずっとかけてたから気が付かなかった」
「相変わらず背が低いままだね、僕もだけど」
「もうっ!気にしてるのにっ!」
彼女は少しは背が伸びて女性特有の丸みが出ているのを感じたけれど、それでも僕と同じ様に同級生とは思えないぐらい背が低かった。
大ぶりのメガネは僕にはとても似合って見えて、とても可愛いと思ってしまった。
僕は彼女の背が低さは、可愛いと思うだけだけど、彼女にとってはコンプレックスなようだ。僕も、もう少し背が大きければ野球で活躍出来たかもと思った事が何度もあるので、気持ちは少し分かった。
「何を買いに来たの?」
「受験のための参考書だよ」
「あっ、私と同じだね」
「どこを受験するの?」
「アイコウだよ」
「頭良いんだね」
「そっちはどうなの?」
「まだ決めて無いんだ」
アイコウ学園は地元で1番と言われる私立高校だ。僕の成績だったらとても手が出ない。嫌な話になりそうなので話題を変える事にした。
「そっちは相変わらずクラス委員してるの?」
「成績が真ん中ぐらいだから選ばれないよ」
「えっそうなの?」
小学校の時はとても頭が良く見えた彼女だったが、彼女の行った私立中学校では真ん中なのか。それとも謙遜して言ってるだけ?
「そっちはどうなの?」
「一応3年間学級委員になったよ」
「スゴいっ!」
「やるやつがいないから押し付けられただけだよ」
「そんな事ないよ、スゴいから選ばれたんだよ」
彼女は僕のクラスが学級崩壊状態なのが想像できないようだ、彼女の通っている私立中学校では起きない事なのかもしれない。
「相変わらず野球してるの?」
「この前引退したよ、今は受験一直線」
「そうかぁ」
「そっちは何かしてたの?」
「吹奏楽部!これでも副部長だよ!県大会まで行ってるんだから!」
「へぇ、リコーダー上手かったし、ピアノも習ってたよね」
「ピアノ教室は辞めちゃったよ、指が短いから課題曲が弾けなくなっちゃったんだ」
「そっかぁ」
話しをしながらバスに乗って一緒に帰った。彼女は駅前の予備校に通っていてその帰りらしい。先に彼女の家の近くの停留所についたのでそこで別れた。久しぶりに彼女と一緒に行動するのはとても楽しくて胸がときめいていた。
僕は彼女が初恋の相手で、そして今でも好きであることを強く自覚してしまった。
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