第1話 早すぎる人生の転落
僕は産まれてから人の前に立つ事が多かった。
苗字がアイカワだったため出席番号はいつもの先頭だったし、背が低かったため背の順でも先頭だった。少年野球を熱心にしていたからか、足が早く運動会の時はクラス代表として色別リレーに参加し続けた。6年の時に1位でゴールのテープを切った時の声援はとても気持ちいものだった。
少年野球ではなかなかレギュラーになれなかったけれど監督の指導によって開花し1番バッターとしてスタメンを張るようになった。6年生が引退する時には監督から次期キャプテンに指名された。だから学校での全国大会行きの壮行会では体育館の壇場でチームの先頭に立っていた。
頭はそれほど良くなかったけれど、クラス委員に指名され、6年生の時には男子の生徒会長として推薦され当選した。音楽会でも僕はクラス委員だからと音楽の先生に指揮者に指名さてみんなの前で指揮棒を振った。
僕は自分がこういった事の代表となり、先頭に立つのは当然と思っていて、少し得意気になっていた。
5年生と6年生の時に同じクラスに似た境遇の女の子がいた。
アカホリという苗字をもつ僕と同じように出席番号が1番で背が小さい女の子だ。
運動は苦手だったけどリコーダーを誰よりも上手に吹けたし、ピアノを習っていたため校内の合唱コンクールでは伴奏をしていた。僕の様にプピーッと鳴ってしまうリーダーと違い音楽の先生の様に淀みない綺麗な音で奏でるし、僕のただ同じ動作で4拍子の指揮を繰り返すだけで綺麗な伴奏をする彼女をとてもカッコよく思った。
他にも読書感想文で表彰されたり、絵画コンクールで入選を取ったりと、何かと僕と似てクラスの前や体育館の壇上に立つ事が多かった。僕と同じ様にクラス委員になったし、女子の生徒会長への推薦され当選した。だから何かの催しや行事で生徒代表として表彰されたり、お互いに個人で壇上に立った時には、また同じだねと笑いあった。
郊外の美化活動や、ポスター作成や、学級新聞、募金の街頭活動。忙しかったけれど彼女と一緒にいると凄く楽しかった。
卒業式が間近い時には彼女の事が好きになっていて、僕と一緒に先頭を歩いてくれるのは彼女だと勝手に思い込んでいた。
けれど中学生なった時にそんな事は無いんだと思い知った。
彼女は少し離れた私立中学校に進学し一緒の公立中学校には居なかったのだ。
公立中学校では野球部に所属したけどそこでは鳴かず飛ばずだった。チーム育成方針が少年野球の監督と違っており、練習中には発揮されにくい僕のプレイスタイルでは監督の目には止まらなかった。全国大会出場チームのキャプテンという評価も、どんどん力を上げていく同級生に一気に抜き去られてしまい、基礎練習と雑用をこなす毎日になった。それでも僕は3年の引退まで真面目に練習に参加し続け、最後の地方大会ではバント要員と代走役で補欠の後ろの方に席を貰う事が出来た。けれど選手として出場出来たのは、第2試合で大差での負けている時に、記念に代走で出させて貰えただけだった。そしてそれが僕の中学校での最初で最後の出場試合となった。
クラスでも酷いものだった。成績は頑張っても中の中で、真面目に授業には参加している割にはテストの点数が上がらず教師の評価も低かった。
1年の時に、学級委員には自ら進んでなったけれど、あからさまに態度の悪い生徒が居てクラスをまとめる事に非常に苦労した。
クラスで割り振った仕事をやらない生徒が増えてきて、遅刻、宿題忘れ、授業前の黒板の消し忘れ、号令の無視、給食の強奪、帰りの掃除のボイコット、ホームルームの崩壊など燦々たる有り様だった。
態度の悪い奴らは個から集団になり、ホームルームに問題を提起するとクラス委員に全て任せれば良いという事を言い出す始末。担任も僕に、お前がやってくれと押し付けて来て、知らぬ存ぜぬと無視を始めたのだ。
勇気を出して態度の悪い奴らに抗議をした事があったけれど 、チビのくせに目立ってて昔からムカついてたんだよ、と言われ押し倒されただけだった。それ以降さらに態度が悪化し、私物を壊されたり隠されたりもするようになっていった。
そんな状態で成績があがる訳もなくテストの方も鳴かず飛ばずといった状態が続いてしまった。
最悪な事に学年が上がっても態度の悪い集団の1人は必ずクラスメイトになってしまい、学級委員には俺が推薦され、賛成多数で押し付けられてしまった。そして繰り返される学級崩壊状態の学生生活を3年間過ごすことになってしまったのだった。
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