第十五県 大戦禍、新潟

第一市 金山攻略篇

 ゴトンっ


 流氷が何かにぶつかった音がした。

 俺は即座に起き上がる。テントの中で寝ていたんだ。

 何が起きているのか。その様子を見ようとテントの外に出る。


「ようやく起きたか」


 イチロー兄さんが冷たい眼差しを向けつつ、そう言った。


「陸地が近づいてたのよ。起こそうと思ったけど、ゴロちゃん、よく眠ってたから、起こすの可哀想で」


 モモちゃんが憐憫なのか、気遣いなのか、よくわからない言葉をかけてくれる。


 とはいえ、流氷は大地にぶつかり、その衝撃で全体にひびが入っていた。その反動で、陸からは離れつつある。

 温暖な気候のせいか、流氷が溶けかけていた。すぐにでも上陸しなくてはならないだろう。


 俺たちはその地に降り立った。


「それで、ここはどこなんだろう」


 疑問を口にする。

 青い美しい海。緑の広がる山々。美しい大地を踏みしめる。色とりどりの鳥や兎が行き交う豊かな土壌だった。

 その豊かさを享受するように、村落がちらほらと見える。


 しかし、どこか貧しいというか、切羽詰まったものをこの地から感じる。これは一体、なんなのだろうか。


「ダンジョンだな」


 イチロー兄さんが言葉を発した。

 その言葉が指し示すのは山の中腹に位置する穴倉だった。その穴倉は地中へと続いており、それはまさに洞窟。ダンジョンであった。

 その地へとイチロー兄さんは足を進めていく。


「大丈夫なのかな。恐ろしい怪物が出るんじゃ……」


 言葉にしてみたが、イチロー兄さんもモモちゃんも聞く耳はなく、そのまま先へ進んでいた。

 しょうがない。俺もついてくしかないじゃんかよ。山の中で一人放置されるのも嫌だし。


   ◇   ◇   ◇


「ねえ、見てよ、ゴロちゃん。これ、金じゃない」


 モモちゃんがカンテラを壁に指し示した。明かりが照らされ、その反射が金色として返される。

 まじまじと壁を見た。これは確かに金だ。俺は慎重になりつつ、周囲の壁を砕き、その金塊を取り出した。


「ふむ、よくやったな。金があるか、すると……」


 イチロー兄さんが思案気に呟く。

 俺たちは洞窟の奥深くに入り込んでいた。そうして、ようやく成果といえるほどのものが今回の金塊だけなのだ。

 ただ、イチロー兄さんは何かに気づいたようだ。


 だが、次の瞬間にそんな余裕はなくなった。何者かが襲ってきた。

 洞窟の天井から垂れ下がり、その牙を剥き出しにする。マイマイだ。カタツムリである。それが俊敏な動きで俺たちに襲いかかてきていた。


 ダンダンっダンっ


 瞬時にイチロー兄さんが銃弾を放った。その銃撃がマイマイの殻を割り、その内臓を露出させ、絶命させる。


「油断をするなよ、ゴロー。ここの怪物にはまあまあやるやつもいるぞ」


 その言葉に委縮しながらも、さらに先へ進んだ。

 やがて、視界が急に明るくなる。それは宝物の明るさだった。金が大量にある。人間の姿を模したものまであった。


「すごい、こんな宝物があるなんて。ここはどこなんだ?」


 思わず、声を上げた。イチロー兄さんもモモちゃんも歓声を上げている。

 だが、水を差すものがあった。人間の姿を模した金の像である。


「ここの金はわいらのもんなんや。あんたらにやるものはないんやで」


 金属人間が口を開いた。驚く俺たちに対して、周囲にいた人足たちが口を開く。


「この人たちは加賀の方々なんでぇ。逆らうことはできん」


 しかし、それを聞いてイチロー兄さんは笑った。そして、金属人間に対して銃口を向け、幾度となくぶち放つ。


 ダダダダダダンっ


 金属人間たちは死んだ。


「これで財宝は私たちのものだ。そして、これを運ぶための舟があるだろう。案内してくれ」


 イチロー兄さんの堂々たる様に人足たちは圧倒される。そして、洞窟の中に流れる川の河口へと案内する。陽の光が照っている。外の海へと通じているのだろう。

 そして、そこに配備された舟は……、いや、舟なのか、よくわからないが、タライが川の上で揺蕩たゆたっている。


「これはたらい舟ですね。タライを模して造られた舟ですが、佐渡ヶ島から新潟間の航行はこの船で行うとか」


 モモちゃんが全国観光ガイドブックを片手に解説する。

 このタライ、舟なのか。あまり乗りたいと思えないけど。


「あ、ここって、つまり佐渡ヶ島ってこと……? 確かに金もあったよね」


 モモちゃんの言葉も聞かず、イチロー兄さんが宣言する。


「この舟で新潟を急襲する。皆の者、ついてこい」


 イチロー兄さんは高らかな宣言とともにタライ舟に乗り込んだ。

 ここは佐渡ヶ島。つまり新潟だ。全国有数の米の栽培地であり、金生産においては日本では並ぶものがいない。

 その場所を後にし、新潟本土を目指す後悔が始まっていた。

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