第二市 北海道はでっかいどう

「北海道はでっかいどう」。そう語った東京都民は誰だっただろうか。

 俺たちはその言葉の重さを痛いほどに実感していた。

 そう、痛い。身体が痛い。寒さとは極まると痛くなるのだ。


 函館を出発した俺たちは更なる北を目指した。目的地は札幌だ。

 函館の隣の都市が札幌。そんな印象があった。しかし、それはとんでもない勘違いだったのである。


 一日目。極寒の大地の中を北に進む。地平線が広がる中を歩き、目印になるようなものもない。ただ進んでいるだけである。

 夜になると、焚火を起こし、函館で手に入れた熊肉の缶詰を暖めて食べた。


 二日目。寒さが増す。防寒着も完璧ではない。歩くことでどうにか身体を暖める。

 夜はトド肉の缶詰を温めてを食べ、どうにか過ごす。


 三日目。雪が降り始める。本気で寒い。休み休み、どうにか進み、休みの旅に焚火を起こして暖を取る。

 速いタイミングで歩を止める。鮭とばを用いて、石狩鍋を作り、どうにか身体を温めた。ウォッカも飲む。


 四日目。ついに吹雪き始めた。しかし、キャンプに適した場所が見当たらない。歩きながらもウォッカを飲み、身体を温める。だが、やがてウォッカは尽き、次第に歩く力も失われていった。

 吹雪の中、かまくらを作り、避難場所を作ろうとする。だが、それだけの体力は残っていなかった。

 我々は判断を誤った。一人、また一人と倒れる。そして、俺も……。


   ◇   ◇   ◇


「くぅーん、くぅん」


 俺を揺さぶるものがあった。誰であろうか。それは北海道民だった。

 その優しげな目は黒い模様で覆われており、鼻は突き出て、耳は垂れている。四本足で立っているが、その背中には茶色い毛で覆われ、腹回りは白い毛が生えていた。

 その首には樽が括られていて、それを取って飲めと言わんばかりである。


「いいのか、もらって」


 俺はその樽を手に取った。フタを取ると、その中にあったのは味噌ラーメンだ。

 麺を啜る。熱々の味噌味のスープの美味しさが麺を通して伝わってくる。そうか、これは油膜でその熱が保存されているんだ。だから、こんなに熱々なんだな。

 もやしもコーンも、味噌味のラーメンスープにピッタリで、チャーシューも肉厚で食べ応えがある。

 いつの間にか麺を食べ終えていた。その勢いのまま、スープを飲み干す。俺の身体は熱量で満ちていた。


 完全に復活した。そうだ、イチロー兄さんとモモちゃんを助けなくては。

 そう思っていると、北海道民セントバーナードが二人を起こしている。


「これは鮭、それにニシン、タラか。大根、ジャガイモ、ニンジン。根菜の組み合わせが実に温まる。出汁がいい味を出しているな。

 なるほど、これが三平汁さんぺいじるか」


 イチロー兄さんは三平汁を食べて復活した。


「うーん、スパイシーな味わい。辛いけど、でも旨味がすごい強い。ジャガイモはホクホクだし、オクラの味わいも新鮮、茄子の柔らかさもいいのよね。ニンジンも甘くてあったかいし、玉ねぎは蕩けてる。それにこの骨付きチキンの美味しいこと!

 これがスープカレーでしょ。カレーが飲みものってこのことだったのね」


 モモちゃんはスープカレーを飲んで復活した。


「ねえ、ワンちゃん、札幌ってどっちかな?」


 その問いかけに、北海道民は「ワン、ワン!」と鳴いて答える。

 そして、尻尾を振りながら、先導するように走り始めた。北海道民の行く手にサッポロがあるのだろう。

 俺たちはその後を追って歩き始めた。

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