第九県 戦慄の凄味、宮城

第一市 伊達政宗像

 宮城県は仙台へと辿り着いていた。福島県とは打って変わり、ビルが立ち並び、モールが広がっている。東京都の片田舎と見まごうほどの大都会であった。


「ふむ、M県S市か」


 イチロー兄さんが独り言ちるように呟く。

 なんで、わざわざ省略したんだ? 宮城県仙台市なんてわかりきった名前じゃないか。


「いや、話に聞いたことがあってな。M県S市という伏せられた地域に、超能力者が集まっているという話を聞いたことがあるのだ。

 それがこの場所かもしれないと思ってな」


 そういうことだったか。

 確かに、一見、近代的な景色に騙されそうになるが、ここは東京都ではなく、宮城県なのだ。どのような魑魅魍魎ちみもうりょうが湧いて出てきても不思議ではない。

 とすると、この辺りにわんさかといる宮城県民もまた超能力者サイキッカーの類だということになる。


 こ、怖い。恐ろしい。これから何が起きるかわからないんだ。


「せっかく、仙台まで来たんだ。ちょっと散策しようじゃないか」


 イチロー兄さんの言葉に、モモちゃんが全国観光ガイドをめくる。

 そして、解説を始めた。


「少し距離はありますが、仙台城まで行きますか。雅称がしょうを青葉城といって、青々とした緑に囲まれた美しい城なんですよ」


 モモちゃんの案内に従い、仙台城へと向かうことにする。

 果たして、言葉通り、そこかしこに樹木の溢れた名城であった。天険の地、青葉山に建てれているだけでなく、敵の心理を逆手に取った迷路のような構造をしており、難攻不落な要塞でもあるようだ。

 そして、その中心部に配置されているのは、名将、伊達政宗だてまさむねの騎馬像だ。勇壮なその姿に往時の活躍に思いを馳せる。


 しかし、その像はどこか奇妙だった。息づかいを感じる。まるで動きだしそうだ。


   ◇   ◇   ◇


 それは気のせいではなかった。

 まさしく、伊達政宗像が動いていたのだ。騎馬がいななき、伊達政宗は腰の大小の刀を抜いた。そして、俺に向かって斬りかかってくる。


「なんだってェーッ!」


 ドドドドドドドっ


 俺の危機に反応したのか、童子切どうじぎの太刀が出現し、咄嗟に伊達政宗の二本の刀を打ち返した。

 しかし、違和感がある。


「ちょっと、おかしくないかな。伊達政宗って、六本の刀を持ってて、Let's Partyレッツパーリーって言ってるもんじゃなかったのか?」


 俺は疑問を呈した。それに対し、イチロー兄さんが言葉を返す。


「東京都で語られる噂と事実とは微妙に異なるものなのだな。これこそが旅に出る意義というものだ」


 まさか、そんなことがあるとは。

 俺は自分の中の伊達政宗像が壊れていくのを感じながらも、追撃する伊達政宗像の攻撃をかわし、反撃の隙が無いかと見極めようとする。だが、そんなものはない。むしろ、さらなる追撃を受け、どうにか凌ごうとするも、徐々に追い詰められつつあった。


「なあ、ゴロー、その伊達政宗像だが、落書きがあるな。いやに達筆だが、『動く』と書いてあるぞ」


 俺と伊達政宗像の戦いを見ていたイチロー兄さんがそう呟く。それを聞き、反応したのはモモちゃんだ。


「それは呪術の臭いを感じますね。その伊達政宗像は誰かに操られてます」


 そうだったか! だから、刀は二本しかないし、Let's Partyって言わないのか。


「ゴロちゃん、それは違う……」


 モモちゃんのツッコミは耳に入らないことにして、目の前の相手に集中する。『動く』の文字は背中にあるようだ。ならば、背後を突かなくてはならない。

 俺は伊達政宗像の攻撃を後ろに退く。それによって背後にあった木に近づき、それを目くらましに、伊達政宗像の斬撃を回避し、その背を突いた。


 バっ


 伊達政宗像は瞬時に弾く。そして、騎馬の形状が変わる。金色に輝く三日月上の紋様の目立つ兜へと姿を変化させていた。

 そして、仙台城から巨大具足が射出される。それに伊達政宗像が搭乗し、騎馬の変化した兜を頭にかぶった。


「完成、黒漆五枚胴具足くろうるしごまいどうぐそく


 漆黒の巨大具足が俺たちの前に出現する。

 こうなっては、さすがに俺の手に負える存在ではない。どうする、逃げるか。俺は退路を見極めようとした。


 すると、イチロー兄さんが腕時計に備え付けられた通信機に語り掛ける。


金陀美具足きんだみぐそく、発進せよ」


 その言葉を受け、金陀美具足きんだみぐそくが天上から降り立つ。日光から発進され、仙台の地まで飛んできたのだ。

 イチロー兄さんは金陀美具足きんだみぐそくの胸元を開かせ、搭乗する。


 ガシャンっ


 金陀美具足きんだみぐそくが動きだした。そして、黒漆五枚胴具足くろうるしごまいどうぐそくに組み付く。両者、一歩も譲れない攻防が始まった。

 そんな中、イチロー兄さんが叫ぶ。


「モモっ!」


 それを受けて、モモちゃんは札を取り出した。呪文を唱え、その効力を発揮させる。


は火気なり。火気は水気の水流にて流し清めん」


 札が水に変化し、黒漆五枚胴具足くろうるしごまいどうぐそくの中に入り込んだ。そして、その内部を洗浄していく。

 やがて、黒漆五枚胴具足くろうるしごまいどうぐそくは動かなくなった。


「伊達政宗像に書かれた『動く』の文字を消し去りました。伊達政宗像に込められた呪術もまた消えたようですね」


 そう言って、モモちゃんがニッコリとほほ笑んだ。だが、金陀美具足きんだみぐそくの胸部から顔を出したイチロー兄さんが難癖を示す。


「まだだな。まだ、本体を倒せていない」


 周囲からは無数の殺気が俺たちを狙っていた。

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