第二市 侵犯
「へっへっへっ、こいつらかい、東京都民とかいうのは! 東京なんて、もはや徳川の血脈も絶えた田舎に過ぎねぇ。
一際目立つ、ニヤニヤした風体の
ほかの
あんなもの、扱えるというのか。
「油断をするなよ、
これはムリョーだ。幾度となく遭遇した
「ふん。あんたほどの男がそう言うのか。
芹沢の言葉を受けて、周囲の
この男は
芹沢鴨がその長い刀を抜く。いや、刀を抜く動作がそのまま攻撃に変わった。
来る。この攻撃の本質は――、
「大縄跳び!」
俺は跳んだ。イチロー兄さんも、モモちゃんも、ムリョーも、
ビュンっ
全員が生き残った。
「やるじゃねぇの」
芹沢鴨が驚いたような表情を見せる。だが、次の攻撃が始まる。
「また、来るぞ!」
ビュンっビュンっビュンっ
皆が避ける。何度目かの攻撃で脱落者が出た。けれど、俺もイチロー兄さんもモモちゃんも無事だ。
だが、急に攻撃が変わる。横に来ていた斬撃が縦に変化した。剣先が上空に上がっていた。
どこだ? どこに降りてくる?
俺はその攻撃の動きを見極めようと、刀の動きに集中した。
「バカめ、本体を狙えばいい」
パァンっ
イチロー兄さんが拳銃を放つ。だが、それを芹沢鴨は頭で弾いた。リーゼントで隠れていたが、その頭には
しかし、その隙を逃さず、イチロー兄さんは芹沢鴨の
「あらよっと」
芹沢鴨はその瞬間に大太刀を放り投げて、イチロー兄さんの攻撃に対応した。
巨大な刀が降ってくる。俺は、モモちゃんは、ムリョーは、
芹沢鴨はイチロー兄さんの正拳をかわすと、そのままイチロー兄さんの顔面へとジャブを放つ。イチロー兄さんは腕を固めてガード。だが、その隙に芹沢鴨はイチロー兄さんの背後へと回り込む。しかし、それをイチロー兄さんは読んでいた。後ろ回し蹴りを芹沢鴨に叩き込む。芹沢鴨はそれを両腕でガード。
一進一退の攻防であった。なかなか、どうして、芹沢鴨という男は只者ではない。茨城県民にも関わらず、エリート東京都民のイチロー兄さんに一歩も引けを取ってはいないのだ。
その戦いは千日手に陥ったようにすら思えた。
「そこまでだ。皆のもの、控えおろう!」
突如として声が響いた。若い男の声だったが、その言葉には聞き入れなければならないと思える強制力があった。
その声の主を見る。そこには一人の老人と二人の若い侍がいた。そして、侍の一人は
「あれはまさか
全国を
◇ ◇ ◇
――ハハアァァ
茨城県民たちがひれ伏していた。俺も、イチロー兄さんも、モモちゃんも、ひれ伏している。
「な、なんだぁ、あんなチンケなじいさんと貧相な若い奴らは。あんなの蹴散らせばいいだろ」
一人、
それに気づいた芹沢鴨は不意に立ち上がり、ムリョーの頭を押さえて、無理やりひれ伏させた。
「バカ! お約束ってもんをわかってねぇのか」
やがて、黄門様が口を開く。
「いかに虚無を恐れようと、茨城を割って
その言葉に皆、
だが、一人だけ、その頭を上げたものがある。
「ご老公、その件ですが、我ら東京都の預かりにはしていただけないでしょうか」
堂々とした物言いであったが、不遜でもあった。水戸黄門の眉が動く。
「まずは名を名乗ったらどうだ。その方、何者だ」
若い侍の一人が口を開いた。
「これは失礼。私は東京都民のイチローと申すもの。この場でご老公に勝負を申し出でたい」
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