第七県 虚無の侵略、茨城
第一市 侵食
ガシャンっガシャっ
俺たち三人を乗せた
しかし、栃木の日光から那須高原を抜け、
「
イチロー兄さんはそう言うと、胸部を開き、露わになったコクピットから出てきた。
ここから先は自分の足で進まなくてはならない。それは大変なことのようにも思えるが、しかし、
しかし、そんな気分も茨城の様子を見て、一転する。
「なんだ、あれ? いや、何もないのか?」
茨城中が何かに侵食されている。いや、侵略しているものなど存在しない。
「あれは虚無です。
茨城県民はかつてこう語ったとされています。茨城県には何があるか。そんな問いかけに対してでしょう。
『何もないんだなあ、これが』
茨城県は虚無に侵食されていると、そう訴えかけたようです。しかし、そんな悲痛な叫びを理解できる東京都民はおらず、今もなお茨城県は虚無に侵され続けているのです」
モモちゃんが全国観光ガイドブックを片手に、そう語った。
茨城に踏み込むということは、虚無に侵食されるという危険と隣り合わせということだ。
「本当にこのまま進むの? このまま北上して、福島へ……」
言いかけて口をつぐんだ。
東京都を一歩でも外へ出れば、そこは魔境である。茨城は恐ろしい場所であるが、福島もまた口に出すのも
これだけ東京都から離れてしまうと、どこにも安心できる場所なんてない。
「そうだな、確かに虚無に出くわすのは避けたい。まずは虚無を避けるべく、高所へと向かう。そこで
そう言うと、イチロー兄さんは平原の先に見える山に向かい、歩き始めた。その山はぽつんと一山だけ
「あれは
モモちゃんが解説してくれる。
俺たちはその筑波山を目指した。その裾野に入ると次第に道は険しくなる。低山と思い、舐めた気持ちでいたが、なかなかの急登を進んだ。
そして、ようやく山頂へと辿り着く。遥かなる茨城の景観が広がった。
しかし、感動している暇なんてなかった。頭上を何者かが通り過ぎていった。
なんだ、鳥か? いや、人か? まさか、天使?
「天狗か」
イチロー兄さんが呟く。そうか、天狗か。
しかし、天狗というのはやらとうるさい。
ブオォォォォンっブオオオォォォォォンっ
爆音を鳴り響かせながら、筑波山の上空を通り過ぎていく。
◇ ◇ ◇
パラリラパラリラっ
「なるほど、虚無は音に弱い。そのためにあんな音を慣らしているのだな。彼らなりの抵抗なのだろう」
イチロー兄さんが独自の見解を示す。だが、その可能性も考えられることだ。
みんな、生きるのに必死なんだ。
東京都から遥かに離れた地において、そんなことを思う。東京都から離れては人間は存在しない。だというのに、人間とは異なる生命に人間と同じような感情があるのを見つける。そのことに奇妙な情緒を感じてならなかった。
パラリラパラリラっ
「いや、ことはそんな穏やかなものではないらしいぞ」
それは尋常な光景ではなかった。
「これは、むごい。イチロー兄さん、助けに行かないと……」
俺の言葉にイチロー兄さんも頷く。
そして、ロープウェイ乗り場に行き、お金を払うと、それによって得たチケットと引き換えに、ロープウェイで
「そこまでだ!」
俺は鬼切りの太刀を抜いた。
そうしている間にも、イチロー兄さんは拳銃を構え、即座に
「えーっと、金色のものはここに置いて、紫色のものはここに……」
モモちゃんは何かの配置をしている。これは、モモちゃんが得意とする仙人の秘術の一つ、風水術であろう。地形を我が物とし、地形によって自らの利を得るという恐るべき秘術た。
「えと、この配置でいいはず。はい、
その宣言とともに、
「へっへっへ、俺たち、
天狗とは鼻が高く、反り上がっていると聞いていたが、少し違う。鼻ではなく、髪型が盛り上がっていた。
物理法則に反しているような異様な髪型だ。リーゼントにより髪が流線形に反り上がっている。これが
しかし、今出た名前はなんだろう。思い起こしてみる。
ムリョー? 知った名のような気がする。しかし、鴨という男には心当たりがない。どんな奴なのだろうか。
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