第六県 最後の守護地、栃木

第一市 おもちゃのまち

 目が覚めると、全身が拘束されている。身体のいたるところに釘が打たれ、それには紐が括られており、私の体が雁字搦めに縛られていた。

 すげぇ、痛い。


 そして、俺の周囲にいる栃木県人はまるで小人のような大きさだ。

 いや、違う。小人ではない。おもちゃなのだ。おもちゃの兵隊に、おもちゃの少女たち、あるいは小さな怪獣。それはおもちゃの集団だった。


「えっと、俺はどうしてこんな……」


 どうにかして状況を思い返してみる。

 俺はイチロー兄さんやモモちゃんとともに、鶴舞う姿に変貌した群馬県に乗り、栃木へとやって来たのだった。

 そして、その行先は「おもちゃのまち」であるとモモちゃんは語っていた気がする。そんな地名の場所が栃木県にはあるのだと。


 つまり、ここは「おもちゃのまち」であり、俺はおもちゃたちに捕らえられているのだ。

 そこに、カウボーイのような姿をしたフィギュアのおもちゃと宇宙飛行士のような姿をしたフィギュアのおもちゃが前に現れる。この二人が栃木県民おもちゃの代表者なのだろう。


「やあ、調子はどうかな、侵略者のお兄さんよ」


 カウボーイのおもちゃが軽快な口調で語り掛けれてくる。それに返事をする間もなく、宇宙飛行士のおもちゃが言葉を続けた。


「我々はここ『おもちゃのまち』の自治権を主張する。貴様も鬼怒川きぬがわの鬼の一派であろう。

 命が惜しくば、このまま逃げ帰り、鬼たちの侵略を諦めさせよ。我々は争いは望まぬが、暴力によって後ろに退くものではないと心得よ」


 鬼怒川。その言葉を聞いた瞬間、俺の腰に刺さったままの童子切りの太刀が反応した。鬼退治の刀だ。思うところがあるのだろう。

 しかし、捕らえておきながら武器を取り上げないとはどういうことだ。


 周囲を見渡す。そして、なんとなく理解した。

 おもちゃたちの中には武器が本体と分離できないものが多い。俺の刀もそのたぐいのものだと思われたのだろう。


 ぶちぶちぶちっ


 つい、起き上がろうとすると、俺を縛っていた紐が引き剥がれていく。所詮はおもちゃの拘束だ。俺を縛り付けられるほどのものではないらしい。


 パァンっ


 カウボーイのおもちゃが銃を抜いた。そして、瞬時に私の眉間を撃ち抜かんと銃弾を発する。

 いい腕だ。だが、俺には通用しない。


 スパっ


 童子切りの太刀を抜き放ち、その小型の銃弾を斬り落とす。かつて、東京の守護神である将門公の技をそのまま真似たものだ。


「貴様っ、我々に逆らうというのか」


 怒りを露わにしたのは宇宙飛行士のおもちゃだった。宇宙飛行士はその腕に仕組まれた兵器を露わにし、俺に向けてくる。


「待ってくれ、俺は東京都民だ。鬼なんかじゃない」


 ピタっ


 急におもちゃたちの動きが止まった。まるで唖然としているかのようだ。

 宇宙飛行士のおもちゃも腕の兵器を下げた。そして、腕を上げ、敬礼のポーズをとる。


「東京都民とは知らず、大変な失礼をいたしました。」


 カウボーイのおもちゃも敬礼している。


「まさか、東京都民に発砲してしまうとは……。面目ない。その太刀筋、只者ではないようですな」


 次々におもちゃたちに讃えられ、俺は気をよくする。東京都民は栃木においては一目置かれる存在らしい。

 調子に乗った俺はつい余計なことを口走った。鬼切りの太刀と共鳴するような感覚もあったからだろうか。


「その鬼というのに困ってるんじゃないか。この太刀は童子切りの太刀。鬼退治の刀なんだ。

 鬼怒川の鬼なんて俺が退治してくるよ」


 おもちゃたちからの喝采が鳴り響く。俺はその感性を背に、おもちゃのまちを後にする。


 そして、気づく。


 鬼ってなんだよ。俺が勝てるような相手じゃないだろ。

 こ、怖い。膝ががくがくと震えるのを感じる。なんであんなことを言ってしまったんだろう。

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