ちゅーがくせいのインフルエンサーと真実 ④

「せっかく事務所でピザ食べようかと思って買ってきたのに、まさか事務所に来て早々、国会議事堂に向かえなんて何事かと思ったっす」


「いやぁ、確かにうまそうな匂いしてたからもったいないことしたな」


「今ならチーズとトマトにサラミが三割増しできるってキャンペーンだったけど、Lサイズ限定だったからボク一人じゃ食べきれないから持ってきたんすよー……食べたかったっす……」


「何その最高のキャンペーン。さっさと終わらせてピザ屋だね。まあ、買ってきたピザに関しては——今、事務所で寝てる芦屋ちゃんが美味しく食べてくれるんじゃない」


「あー……そういや、秋吉さんと二人で色々と調べ直してたみたいっすね~……んで、結果はどうだったんすか?」


 本来であれば結界内部に入ることなど不可能だが、退魔師並びに警察庁にいる退魔師ではないものの彼ら同様に見える人材らが国会議事堂周辺を囲っていた。


 ちなみにメディアはこの歴史に残るであろう大事件を取り上げようと必死に車やレポーターたちを向かわせていたが、その全てが芦屋家前当主が手配した現役を引退した老退魔師たちによりたどり着けないよう迷わされていた。


「まあな。で、気になる点がようやく出てきた」


「出てきたなら幸いっす。狐は化けることができる分、厄介極まりないっすからね~」


「……お前が生きてた頃に遭遇したことあんのか?」


「……ちょっと、っす。てか、狐はどこ行ったんすかね?」


「ああ? お前、もしかして気づいてんのか……?」


「そりゃもう。あの狐、昔と変わってねーっすよ。ホント、嫌になるくらいうまくやるっすね~」


 秋吉探偵事務所のメンバー三人総出で軽口を叩き合いながら内部を進んでいく。


「そっかそっか。秋吉と芦屋ちゃんが調べたことは無駄にならずに済みそうだ」


「無駄どころか―—……来たんすよね。で、二人とも頭は大丈夫っすか?」


「ああ。一樹が俺と哀子で調べた違和感を視てくれたおかげでな」


「怪異もまさかデジタルに対応してくれるとは……クソ愉しすぎて笑っちゃうね」


「んじゃ、助けられるうちに助けるっす!」


 扉を開けた先にいたのは既に気絶している総理大臣雉名晴人とその彼の近くに立っている虚ろな目をした金城大悟。


「……穏便に全身痺れさせて捕獲する予定だったんすけど……無理ゲーっすね」


「そうだね。これは無理ゲーだよ。けど、ああ……いや、二人で何とかしておいてくれ」


 その言葉と共に美月さんは倒れている雉名を肩に担ぎ、そのまま素早く出て行った。


 そうして残されたのは一樹と秋吉。そして——……


「きゅう、び、さま、の、ために―—……」


 一振りの剣を取り出し、正眼に構える金城大悟。


「穏便になんて無理だな。一樹、思いっきり暴れてやれ!」


 秋吉は後方に下がりつつも自らの半身を液状化させ、蜘蛛の巣状に張り巡らせる。


「了解っす!」


 一樹は試作品としてもらっていた数珠を繋いでいた糸を引きちぎり、更に自らの腕に巻いている手袋を解除。


「な、なんだ……お前、は……」


「少しは驚いてくれたっすか? ボク、昔、特攻して死んだんすよ。で、国のために死んだら次は国のためにお前の体に雷神を合わせたって——クソみたいな冗談っすけど、これが本当にクソみたいな真実ってやつっす!」


 バチバチと火花を散らせる少年の両腕に金城は慄くが、すぐに意識が違うものと入れ替わったかのように感情を無くす。


「……ぃ、わかり、ました……私、は……君、を、殺ス」


 右腕を横薙ぎに振ると同時に展開される青い炎。


「……っ、鬼火だと!? おいおい、こりゃもう手遅れじゃねえのか……」


 自らの内に封じられし神を三割程度とはいえ解放した状態の一樹は攻撃にしかできない。そして、それを防ぐのは常に後方に控える秋吉。怪異化した七割を使うとはいえ、鬼の力は怪異の中でも圧倒的に強い。


(全部、防ぎきれるか……)


 奥歯を噛み締め、覚悟を決めようとした彼に対し、一樹はいつものように笑う。


「大丈夫っす。この程度なら一発殴るだけで充分イけるっす!」


「……だな。じゃあ、後は頼んだぞ!」


「了解っす!」


「ぉ、ぉ、ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 獣の如き咆哮を響かせ、数十から既に百を超えた鬼火を一斉に降らせる。


 椅子や机が爆散し、煙と木片が舞い上がる中を一樹は真っ直ぐに駆け抜ける。


 自らに被弾しそうなものと突撃していく相方を阻もうとしている鬼火全てを的確に防ぎ続ける秋吉。


 三人による激しい攻防戦は長くことなく——


「…………ッ、が、っ……!」


 鬼火による弾幕を潜り抜けた雷を纏った右拳により、国会議事堂で起きた事件は幕を閉じる。


 

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