田中ゲームに潜む怪異 ⑥
深夜四時四十二分。ついにその瞬間が訪れようとしていた。
『~~~~っ、いよっしゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! 初見三千点超えキタコレキタコレ!!!!! えーと……あ、これでようやく終われる……正直、これ、音良すぎじゃない!? 何かさぁ、プレイしながら寝そうになったよ。え? わかる? よかった……じゃあ、そろそろ終わr——……ッ!!?!!!?』
視聴者からのコメントに従いつつ自己流のプレイスタイルで勝ち取った三千点超え。配信者であるミカガミ・はるとは自身のキャラを忘れ、素で喜びを叫ぶ。
“やったあああああああああああああああああああ!!!!!”
“おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!”
“感動した!!!!!!!”
“これからもファン続けます!!!!!”
コメント欄も大いに盛り上がる。
それを見守っていた秋吉はコメントこそ書き込みはしなかったものの、目に涙を浮かべていた。
「……ホント、よくやった……やったな……っ!」
しかし、冷静に見ていた美月が画面上に一瞬だけ現れ、今まさに配信者である彼を襲おうとしている“怪異”に気づく。
「秋吉、感動で泣いてる場合じゃないよ」
「うるせぇ。いち視聴者として、付き合い続けると普通はこうだろ!」
「そうなんだけどね。目的を見失っちゃダメだよ。一樹」
「どうやら出てきたみたいっすね」
「あとは頼んだよ」
美月からの合図と共に手にした石を強く握る。
■
「……これは、中々に気持ち悪いっすね……」
砕き割った石は砂となり、同時に光に変化する。光全てが一瞬で体を覆いつくすと同時に現実の体は意識を失い倒れる。
自らの意識のみが0と1で構成された電子の海に入り込んでいくのが徐々に分かっていく。
今もリアルタイムに更新されている情報の洪水に一瞬だけ呑まれそうになる。
だが、目的は決まっている。余計な情報を次から次へと追い払い続け、その中から先程まで配信を続けていたミカガミ・はるとを探す。
「ワが、あルジの邪魔、ヲ……スるナ……」
妙な気配——否、電子の海に仕込まれている怪異たちが一斉に襲い掛かってくる。
「く……っ! 何すか……」
通常時に仕える雷の力は電子機器を破壊し、自らを閉じ込めてしまうことになりかねないため今の状態では使えない。なので、何とか力任せに形のない黒い怪異を振り解きながら、あらかじめ聞いておいたインターネットにおける住所であるIPアドレスを辿る。
「…………よし、ここっすね…………!」
残り時間一分四十秒。
何かが起きたはずなのに配信が強制終了されてないミカガミの元にようやく辿り着く。
「……みぃ~~つけた、っす!」
「な、なんダ……? お前、ハ……」
「なるほど。ボクと似たような形でインターネットに入り込み、人間を支配しようとしてたんすか」
「シるか……ッ! 我ラは、あ、るジの仰セのマまに……」
立体映像と化したその姿は狐だった。体調不良になった原因は恐らく今やろうとしていたことが原因だろう。
到着した瞬間、一樹が見たものは自らの伸びた爪を相手の額に刺そうとしていた狐の姿。相手も同じ立体映像ではあるものの、怪異が人間の内部に干渉することにより起こるものがどういったものかを即座に理解した一樹は相手の心臓にあたる部分を刺し貫くことで動きを止める。
心臓を貫かれたであろう狐は光の粒子と化し、消えていく。
一瞬で起きたこの状況に理解が追い付かず、椅子からずるずると崩れ落ちてしまった。
「お、お前……何? も、っも、もしかして、みつきっちの言ってた……え、えと……」
驚きのあまりしどろもどろな口調ではあったが、それもそうだろう。事前にある程度聞いていたとして、現実にそれが起きる訳などないと思っているのが人間だ。
「あ、えーと……さっきの狐が怪異っす。んで、ボクは――似たようなものっすけど、キミに危害を加える気はないっす」
残り時間三十秒。
「そ、そうか……」
「あ、そうそう。ミカガミさん」
「は、はいっ!」
「三千点超え達成おめでとうっす」
じゃ、と手を振り笑顔で消えていった少年の姿に青年は配信を切り忘れていたことすら忘れ、思わず近くに置いていたスケッチブックに一樹の姿や狐の姿を描き始める。
無我夢中でイラストを描き上げ、ネット上にアップした。
賞賛の言葉こそあったが、特にこれといった話題になることはなかったが、後にこの事を題材にした漫画をSNSにアップする。イラストよりも大きく話題になったその漫画は書籍化した後、アニメにもなるのだが、それは別の話。
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