田中ゲームに潜む怪異 ⑤
『みんな~、こんはると~。今日は巷で大人気の田中ゲームをやりま~す。そんでもって、僕ってばこのゲームやるの初めてなのにも関わらず……なんと、耐久です! 三千点超えるまで終われないという! 告知はしてたからやるけど! ただ、朝までコースになると思うから眠かったら落ちても大丈夫だからな! お前らが見ててくれんのは嬉しいけど、体は大事にしろよ! な!』
時刻は二十三時半。金曜日の夜にボーイソプラノのような優しい声が張りがPCのディスプレイ越しに響いてくる。
現在の同時接続数は千五百ぐらい。しかし、個人で配信をやっているミカガミ・はるととしては流行の人気ゲームの配信ということもあってか、いつもよりも多い接続数に驚いている様子。
「へぇ~~こんな人いたんすね」
「個人でやってる子だからね。知らないのも当然だよ」
「もしかして、こいつもゲーム仲間か?」
「そうだよ。オフで会ったことはないけど、配信機材に関する相談を受けたことがあってね」
「もしかして、このイラスト描いたの美月さんっすか?」
「私はそこまで器用じゃないよ。けど、原案みたいなのは送ったことあるよ」
「じゃあ、それを元にこのキャラを本人が描いたとか、っすか?」
「そうそう。実はこの子、イラストレーターが本業だからね。元々はライブ2Dのテスト配信を中心に生配信でお絵かきしたり雑談配信してたんだけど、ここ最近はゲーム配信が多いんだ」
「あ、よく見たら、クラスメイトが読んでた小説の挿絵にそっくりっす」
「……お前、意外と現代に馴染んできてんな……」
「いやぁ~、ボクの時代にはこんな娯楽なかったし。それ以前に生きるか死ぬかの瀬戸際だったすからね~」
「……お前のその言葉は重すぎる」
「事実っす」
現在、秋吉と一樹と美月の三人は事務所の応接スペースにあるデスクトップ型PCで金髪碧眼の可愛らしい見た目をした少年がゲームしている様子を見守っている。
「一樹、今見てる限りでは気配は感じないから、冬華からもらった石はまだ使わないでおいてくれ」
「わかってるっす。この石、使い捨てっすからね。しかも時間制限は三分。正直、三分で怪異を見つけられるかどうか不安しかないっす」
手のひらに収まるサイズの淡い緑色の石。これが一階下に住んでいる古物商を営みつつも錬金術師である幼なじみが作ってくれた力を制御するためのアイテム。
ちなみに手袋はそれなりに痛んでいたようなので修復には一日かかるとの事。なので、その代わりに手のひらから上腕まで聖骸布と呼ばれているを巻き付けていた。
「大丈夫だろ。冬華さんが言ってた怪異がアレなら逃げられはするだろうが、見て確認するぐらいなら——いけるか?」
「冬華ちゃんの言ってたことが本当なら、この件、早々にどうにかしないと危ないっすね……」
話し込みつつも配信をジッと見守っている三人。その姿はもはやただの視聴者にしか見えないが、実際は違う。
「ま、今回のことは既に伝えてあるし。話をした時に彼もその噂は知っていたみたいでね、話が早くて助かったよ。とはいえ、ホントは止めたかったんだよね。けど、結局、私が依頼する形で配信してもらってるし、何か起きた時はこちらから強制的に配信終了できるようにユーキからも協力してもらってる」
「……相手も相手で、よくこれを受け入れてくれましたね」
「ちなみにこの子、退魔師の末裔だよ。家自体は有名じゃないし、血そのものは既に薄れてるからそういう力はないんだけどね」
「オフで会ったことないというわりには、よく知ってるっすね」
「……何代か前の先祖には会ったことあるからね。芸術面に秀でていた一族だったから、現代でこのように応用が効くとは思わなかったよ」
配信開始から二時間経過――。
『……うわっ、マジか~~……あとちょっとだったのに……』
千五百点まではうまく処理できていたものの、名刺が崩れてしまったり、器の外に出てしまったりと悪戦苦闘していた。
『うーん……もうちょっと慎重にやってみるか?』
上司から出される名刺を受け取り、器に入れていく。最初に出されたのは『渡辺』。次も『渡辺』だったので『吉田』に変わる。
『よし。もうひとつ吉田がくれば――っと、ここで高橋っ! まだ序盤だから端にして、っと』
視聴者からのコメントを見ながら、丁寧に積み上げ、変化させていくミカガミ・はると。
『お、やった! 鈴木が出来た! あ、あっ、あああ、でも、伊藤が引っかかってる! え? ここからでも変化させ続ければいけるか!?』
しかし、奮闘虚しく得点は先程よりも高い千九百点。
『あー……三千点なんて夢のまた夢……? いいや、まだ二時だし、いける! じゃあ、もうちょい頑張るけど、そろそろ眠くなってる奴と学生は寝ろよ~。一応、これアーカイブ残すから』
視聴者からのコメントを拾いながら雑談するミカガミ自身も眠いのか、あくび混じりの音声が流れてくる。同接数も時間が経つにつれ徐々に減っていき、今は七百。しかし、それでも配信は終わらない。
「……うわー……これ、朝までコースになりそうっすね……秋吉さん、大丈夫っすか?」
「……すまん。目が限界に近い。ちょっとだけ横になっていいか……」
「いいよー……あ、そうそう。一応、目を休めるためのグッズならテーブルの上に置いてるから……」
「おう……さすが……んじゃ、三十分経ったら起こしてくれ……」
「はーい……」
美月と一樹に至っては若干の疲れはあるものの、まだ耐えきれるという体で視聴を続ける。
そうして、時刻は更に深みを増していく。
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