田中ゲームに潜む怪異 ④
佐倉一樹は【人造雷】の名の通り、雷の怪異である。
その力は本来、怪異庁によって特異指定災害として認められてる以上、封じられるべき存在。しかし、事故とはいえ封印が解けてしまった以上、現在は怪異庁の監視下に置かれている。
それもこれも
彼女のおかげで一樹は表向きは一般人兼秋吉探偵事務所バイト所員として存在していられる。
しかし、その一方で、一樹にとっての生命線でもある雷そのものを完全に制御するのは困難。封印が解かれた一年前、一樹は暴走した。
暴走を止めようとしたのは哀子とその場に居合わせた秋吉と怪異庁職員数名。
重傷者こそ幸い出なかったものの負傷者は多かった。他にも道路の陥没や器物損壊など災害も起きたが、全てを収めたのは目元が全くといっていいほどに見えない漆黒のサングラスをかけた藤宮美月。
一樹の暴走を止めた際に与えたのが、冬華が作った手袋である。手袋そのものは肌と同化しているので一目見ただけでは彼が腕までを覆うような長い手袋を装着してるようには見えない仕組みとなっている。
そして、それは週に一回メンテナンスを行うことで彼は力を制御し続けることができるようになっている、はず、だが――……
「おや一樹。学校は終わったのか?」
「うん。ふつーに終わったっすよ~」
「で、私が作った手袋が痛んだ、と聞こえたんだが?」
「炎水村で力使ったし、この前もホストクラブの幽霊の件で力使ったし――ここ最近忙しくてメンテに来れなかったから……スマホが壊れたっす」
この通り、と見るも無残な姿になった携帯端末を冬華の前に置く。
「……言っておくが、儂は携帯は直せんぞ」
「手袋が痛んだ証拠として提出してみたっす」
「なるほど……村から帰ってきた時に見た時に比べると少々綻びができ始めているようじゃな」
「百年近く封じられてたっすから、力もそれなりに失ってはいるはずなんすけどね……」
「それでも一樹の中におる雷神の力は強すぎる――お、そうじゃ」
「どしたの?」
「お主、いんたーねっとの世界に行ってみたいとは思わぬか?」
「急っすね。ていうか、そういや秋吉さんも美月さんもいるし、何かあったんすか」
そういやユーキさんともすれ違ったっすね、とぼやく一樹に美月が簡単に説明する。
■
「ああ、それなら今日の昼休みになっつんと話したっす」
「なら、話は早い。インターネットの世界に入って探ってみてくれないか」
「怪異を、っすか?」
「ああ。その怪異の正体に関してはさっき説明した配信者のアーカイブに映った画像を今ユーキに解析してもらってる」
「ユーキの仕事は早いから――まあ、明日の朝ぐらいには分かるんじゃねえのか?」
「……ふーむ。この前、森を燃やしたり、建物五軒ぐらい壊しちゃったりしたから、制御がうまくいくんなら何とかなるんじゃないかと思うんすけど……」
やってしまったっす、と苦笑交じりに一樹が冬華に視線を向ける。
「……五軒……? ああ! この前の倒壊事故はお主か!」
「いやぁ~~……ちょっと幽霊さんにショック与えようと思ったら、とんでもないことになったっす」
あはは、と悪びれもない様子の一樹に冬華は青ざめた顔で引いていた。
「そんな引かないで下さいっすよ~。幸いなことに人間は誰一人として巻き込まなかったっす」
「そういうことじゃない! その状態で力をむやみやたらに使うなということじゃ!」
「……もしかして、この手袋って結構貴重な素材使ってたり?」
「聖遺物って知っておるか」
「え……マジっすか……」
「その手袋は今は廃村になっておるが、かつて
「なるほど。さすが冬華ちゃんっす」
神が遺した物を素材に、新たな物を生み出すということがどれほどのものか。
少なくとも一樹の力そのものを抑えていられる品を生み出すという点だけでも凄いのだが、一般人には理解の
ひとつ言えることがあるとすれば、このような物質を目の前にいる市松人形のような妖艶な少女が持つ知識と技術をもってすれば世界を変える一品を生み出すことも可能だろうということだ。
「で、先程あの少年から見せてもろうたあーかいぶに怪異らしき何かが映っておったのは間違いない」
「私も見てたからね」
「俺は正直よく分からんが、不自然な終わり方をしたことには違いない」
「……ふーん。じゃあ、ボク自身の意識のみを電気信号に変換してインターネットの世界に入り込んで確認する、ぐらいのことができるようにしないとダメっすね~」
「ふむ。儂はお主の言っておることがさっぱり理解できんが、今の状態でそれを行うのは不可能じゃろうな」
「だから来たんすけど……申し訳ないけど、冬華ちゃん、これ似たようなやつはあるっすか」
「無いな。前にも言ったが、それは儂が以前何となくで作ったのをお主用に改造した唯一無二の商品じゃ」
「じゃあ、修理してもらわない限り、何ともできないっすね」
「ああ。ただ、最近それは力を抑えるものであって、力を制御ができるような品ではない」
「あ、そういやそうだったっすね」
「だから、そろそろ力を制御できるような品にしようかと思って、試作品を作っておいたんじゃ」
ちょっと待っておれ、と奥に引っ込む。
「なあ、一樹」
「何すか?」
「あの事件、穏便に解決したって言ってなかったか?」
「穏便にとりあえず雷落としてみたっす」
キリッと決め顔で笑う一樹に秋吉がおでこを指で弾き、ちょっとしたダメージを与えていると、布の上に石らしき物を乗せて持ってくる冬華の姿が目に入る。
「何をしておるんじゃ、お主らは」
「いや、ちょっとな」
「秋吉さんに注意されただけっす~」
「ほぼ詐欺に近い営業してたホストクラブが五軒ふっとんだぐらい、私はどうでもいいけどね」
「……まあいい。それよりもこれなんじゃが」
冬華が持ってきたのは緑色に光る石。
「これが制御装置っすか?」
「ああ。その手袋は一度こちらで預かって修理するから、これを試しにつけてみてはくれんかの」
「けど、これ、石にしか見えないっすよ」
「じゃろうな。この石にお主が雷を制御するための演算装置が全て入っておる」
「それって、退魔師とか魔道師の理論じゃないんすか」
「そうじゃ。奴らの理論を石一つに組み込み、肌に身に着けられるようにできんかと思ってな」
「さすが冬華ちゃん。んじゃ、どう使うか教えて」
「これはな——」
喜々とした調子で使い方を説明する冬華と、それをうんうんと穏やかな笑みを浮かべて聞いている一樹の様子に二人は改めて錬金術師の凄さを思い知らされるというよりは、縁側に座ってお喋りしている老人を連想してしまうのであった。
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