田中ゲームに潜む怪異 ①

「怪異アプリの正体って何だと思うっすか?」


「それを何故俺に聞く」


 佐倉一樹は現在高校生として公立校に通っている。編入したのは九ヶ月前。そこでちょっとした事件に巻き込まれ、目の前にいる金髪の少年と知り合った。


 編入した時はクラスこそ違ったが、新学期のクラス分けにより今年度はこうしてクラスメイトと相成ったわけだが、編入当初から浮いていた一樹とまともに話しているのは、彼だけである。


「なっつんはボクよりも人脈あるから何かそれらしき噂を知ってるんじゃないかと思って」


 一樹にとっては唯一の友人である旭川あさひかわ夏陽なつひはそれなりに知り合いが多い。本人曰く、中学んときにやり合ったら何か連絡先多くなってたとの事。連絡先がバイト先とその他関連で埋まっている彼としてはうらやましい限りだ。


「……噂ねぇ……それを広げないように怪異庁からの依頼とはいえ、あのユーキさんが動いてるんだろ」


「そうっす。けど、イマイチよく分からないし、この前行った炎水村はどうやらハズレを引かされたみたいだったっす」


「ふーん……それなら、今流行りのゲームとかも調べてみたらいいんじゃね」


「ゲームっすか……ボクはゲーム苦手なんすよ」


「前に携帯ゲーム機を初めて触って楽しかったって言ってだろ」


「アレはすぐ壊れたっす」


「壊した、の間違いじゃねえのか」


「そうっす。夢中になりすぎて電気流し込んだら爆発したっす」


「……へぇー……」


「引かないで下さいっすよ~……ていうか、ゲームと怪異アプリに何か関係あるんすか?」


「ああ、本来ならソシャゲがいいかと思ったんだけど、ここ最近妙に流行り始めたゲームがあってな」


 これなんだが、と端末を操作して表示されたものは、


「あ、これ。見たことあるっす」


「だろ。ここ最近流行り始めた低価格のパズルゲーム」


「次から次へと落ちてくる有名な苗字を合わせて、最終的に『田中』にして『田中』同士を合わせると消える」


「アーカイブとはいえ、コメント欄も結構平和っすね~」


「だよな。鈴木そこだーとか山田ぁぁぁとかコメントも合わせて見ると、何か面白くてな。プレイする側も見る側も謎の中毒性があるゲームなんだけど……これ、実は最近発売されたやつじゃねーんだよ」


「ほうほう。発売したのは三年前っすか……」


「流行り始めたのはここ数ヶ月なんだが――実はな、妙な噂があるんだよ」


「このゲームにっすか?」


「ああ。このゲームの最高得点というかカンストは九九九九で、三千越えるには田中を作るのが必要で三千点越えるまで耐久配信なんてのもやってるプレイヤーもいる」


「詳しいっすね。なっつん」


「弟と妹がハマってる配信者がいるから一緒に見てんだよ――つってもアーカイブだけどな」


「生配信は見ないんすか?」


「見たいんだが、そいつ深夜配信が多くてな。中二の弟はいいとして、小学生の弟と妹二人はできるだけ十時過ぎかその前に寝かせるようにしてるからな」


「さすが、なっつん」


「で、話を戻すが、つい先日、俺らが見てる配信者じゃないんだが——このゲームを実況していた奴が体調を崩して入院したらしい」


「……その人自身が元々病気がちだった、じゃないっすよね?」


「そう思いたいが、そうじゃないらしい。アーカイブをコメント欄を見たら、確実に盛り上がりそうな部分で……まあ、これを見てくれ」


 夏陽が見せてくれた動画を見ると、ちょうど三千点に近づいた所だった。

 あと少し、もう少し、あとちょっとで鈴木、といったコメントが多く流れ、深夜配信とはいえ盛り上がっていたのがよく分かる。

 そうして、端に寄っていた『鈴木』が『田中』に変化し、三千点を超えると——


「……コメントの流れが遅いっすね……」


「だろ? 登録者数から考えると視聴者数もそれなりに多いんじゃないかと思うんだが、このコメントの流れの遅さはおかしくないかと思って」


「で、なっつんなりに調べてみたら——配信者および視聴者に変化が起きていた、と」


「そういうこと。怪異アプリにつながるかどうかは分からんが、このゲームそのものを調べてみてもいいんじゃないか」

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