大学生六人行方不明事件 ⑦
結論から言うと怪異アプリと炎水村に関連する情報は出てこなかった。
しかし、古くから伝わる伝承に則るような形で行われている祭りは準備こそ大変だったが、子供達による舞を見て涙を流している兄の姿を見て、残っていたわずかな憎しみが消えていくようなものを感じた。
「は~~っ……ようやく終わったぁ~~……」
「おう。お疲れ」
「お疲れさまです」
三年前から動画配信サイトを通じて行っている舞の生配信のアーカイブをチェックし終えた彰大とそれを一緒に行っていた大輝のサークル仲間である山中さんと互いに健闘をたたえ合う。
「ところで金城さんはどうしてんですか?」
「ん? ああ、大輝なら撤収作業してんだろうけど……あー、この時間なら終わってんだろ」
「あ、ホントだ。俺、こんなに起きてたの受験勉強以来ですよ」
「だよな。けど、来年は大学受験だろ。もっとハードになるぜ~~」
「やめて下さいよ~。じゃあ、そろそろ寝ますか」
「いや、大学生っていうのはな飲んでこそ、なんだよ」
「何ですか、それ」
「そんなわけで俺は腹を満たしに行ってくる」
じゃあな、と作業してた部屋から颯爽と出ていく山中に彰大は苦笑する。
実を言うと作業中、撤収作業が終わったら村人たちは打ち上げの飲み会を行うという事を大輝から聞いており、二人は作業がひと段落あるいは終わったら来るように言われていた。
嬉々として出て行った彼の後を追うような形で彰大も教えられていた場所に向かう途中。
「おや。彰大くん。どうしたんだね、若い連中がやっとる飲み会ならあっちじゃよ」
「あ、すみません。トイレに行きたくなって」
「おお、そうか。それはすまんのう」
「あ、はい」
反対側に行っている自分を不審に思ったのか声をかけてきた村長に頭を下げ、そのまま通り過ぎようとしたが、
「ところで彰大くん。わしらの村の近くに森があるじゃろ」
「あ、はい……」
「実はのう、そこにキミたちの興味を惹きそうなものがあってのう」
「あ、ああ、あの森にですか」
「そうじゃ。都会にいる学生が来ると聞いた時は面白半分で来るような奴らかと思って、明かさないでおこうかと思ったんじゃが、どうやらおぬしらは違うようじゃ」
「村長さん……」
「この時期は嘘を吐くと神様に喰われると言っておるが、これはあの森に子供達を近づけさせないようにするためなんじゃ」
「はあ……?」
「あの森には神様が封じた人喰い鬼がおってのう。この時期だけどういうわけか封印が少々緩んでおるようで、何も知らない子供が鬼に誘われたのかは知らんが、いなくなってしまったのじゃ」
「鬼、ですか……」
兄も知らないであろう話に彰大は息を呑む。
「まあ、人喰い鬼なんぞホントかどうか分からん話じゃが、せいぜい近づかぬようにな」
警告、だったのだろう。
だが、兄に話さずにはいられなかった。
■
「――――なるほどっす。村長さん、中々の役者っすね~」
「…………っ、な、に……を……」
「キミたちは騙されたんすよ。村長さんに」
「…………」
「確かに。この村で炎の神様と水の神様が争って、ついでに人喰い鬼が封じられたのは間違いないっすけど、祈りを捧げた巫女様は巻き添えをくっただけっす」
「……じゃあ、兄さんは……」
「キミのせいで死んだわけじゃないっす。その仲間たちだってキミのせいじゃないっす」
「……」
「だけど、この場にキミたちをおびき寄せたのは紛れもなく村長さんっす。いいっすか。村長さん――九鬼家は昔、神様たちによってこの地に封じられた人喰い鬼の管理を命じられたんす。それはすなわち、彼ら一族はこの土地に縛り付けられたということでもあるんすよ」
「…………ま、さか……」
「怪異庁って、人ひとりいなくなったところで動いてくれるような組織じゃないんすよ。だけど、封じていたものが解かれて暴れでもすれば動かざるを得ない。そう考えていた村長さんはいつからかは知らないけど、毎年一人ずつ鬼に生贄を捧げ始めた。だけど、子供一人の命ぐらいじゃ封印を緩める程度でしかないっす。
だったら、子供たちの数を多くすればいいって思うっすよね。けど、村長さんは自分たち九鬼家の血を絶やすわけにはいかないという強迫観念に囚われてたんすよ。
じゃあ、自分たちの血ではなく外部から来た人間を生贄にしてしまえばいいんじゃないか、なんて思った九鬼家は三年前から祭りのネット配信を行い、特に好評だった舞をアーカイブに残すことで村に興味を持ってもらおうと考えた。
そして、それはキミたちが祭りの手伝いに来るという形で叶えられた。だったら、あとは実行に移すのみっす」
顔を青ざめさせる全身を震わせる彼に構うことなく一樹は続ける。
「キミたち七人は九鬼家をこの地から解放させるために利用された生贄なんすよ」
「……っ!」
「とはいえ、ボクがここに来たのはキミの中にいる人喰い鬼を処分するためなんすけどねぇ……うーん……中々出てこないっすね」
見るべき記憶は全て見たと判断した一樹は彼から手を離し、そのまま大きく距離を取る。
「ショック療法ってことで」
「な、なにを……」
戸惑っているようだが、一樹にとっての処分対象はあくまでも人喰い鬼であって土浦彰大ではない。
「じゃ、そういうことで」
右手を上に指先で空気を混ぜるようにくるくると動かす。
「…………ッ!」
乾いた空気に湿り気が帯びてくる。晴れ渡っていた空に黒い雲が発生し、ゴロゴロと低い音を立て始める。
「降水確率ゼロパーセントを無理矢理ねじ曲げるから、これ結構キツいんすよ」
轟音を立てて飛来する光の竜は森の木々を通り抜け、危機を感じた鬼が影を通じて出てくる瞬間を狙いすましたかのように直撃した。
ズズゥ……ン……!
「あ、いい感じに当たったっす。けど――」
意識を失った少年を肩にかつぎながら周囲を見回す。
「……手加減したのに、何で山火事になるっすかね~?」
まあ、いいかとごうごうと燃え盛る炎の中を悠然とした歩調で進む一樹なのであった。
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