大学生六人行方不明事件 ③

 特異指定災害怪異第二号・通称【人造雷】は今から百年前に退魔師によって封じられた。

 怪異庁のトップである芦屋あしや家が管理していたが、昨年その封印は解かれた。

 芦屋家の退魔師総出で再び封印しようとしたが、それは叶わず。人類に仇なす災害を越えた怪異中の怪異に誰も彼もが苦戦を強いられた。

 しかし、そこに現れたのは――


『ちょっとキミ、私のところでバイトしない?』


 場にそぐわない勧誘の言葉と共に音もなく現れた秋吉探偵事務所所長である藤宮ふじみや美月みつきが彼の力をいともたやすく封じることに成功。方法は不明。

 しかし、その場でそれを目撃していた芦屋家の長女曰く『退魔師やめたい……普通の会社員になりたい……』と自信喪失しかけたぐらいの方法であったことは確実だ。

 それから、長いので割愛するがなんやかんやかんやなんや色々あって彼は現在高校生として生活している。


「ああ、あの大学生六人が行方不明になったやつっすね。ボクもそれなりに情報は集めてたっすけど……この人の書いた同人誌すっごく面白いっすね~」


「よく入手できたな」


「オタク系のお店で普通に売ってたっす。彼が中心にメンバーたちをうまくまとめたんだろうなぁ……と思うぐらい良くできた一冊っす」


 特異指定災害怪異第二号にして人造雷は元は人間だったらしく、今は人間だったころの名前――佐倉一樹として高校に通っている。


「しっかし、ボクは十七の時はこんな便利な鉄板なんてなかったから使うのに苦労したっすけど、今の若い子たちに教えてもらったおかげでいい感じに情報が集まって楽しいっすね~」


 うんうんと頷く少年は外見こそ十七才だが、生きていれば百才近くになるという。要するに見た目は高校生、中身は老人。


「この一年でよくそんなに使いこなせるようになったな」


「まあね。ていうか、車で行ける程度には良い感じに開拓されてる村で助かったすね~」


「だな。毎年秋に行われる祭りは有名だからな」


「小さい子供たちの舞は去年ライブ配信されてたらしいっすからアーカイブ残ってたんで確認したっすけど、この村の子供たちは従順なんすね」


「従順……って、何でそういう言い方になるんだ、お前は」


「うーん……秋吉さんは舞を見たことあるっすか?」


「……ニュースで取り上げられた映像なら見たことある気はしないでもないが……」


 運転しながら記憶の片隅から引っ張り出そうとするが思い出せない。それを察してか、助手席にいる一樹が携帯端末を操作する。


「これっす。みんな綺麗な動きしてるんすよ」


 横目でチラリと見ただけでも分かるぐらいその動きは揃っていた。


「ふつーの人なら、すごく頑張ったんだね、って捉えてくれるっすけど、ボクはこれ見て恐怖を感じたっす」


「そうか?」


「子供って基本自由じゃないっすか。だから、ある程度の動きはできてもこんな綺麗に揃うことはないっす。それなのに彼らは何かに強制されてるんじゃないかってぐらい綺麗に舞い踊っている――……不気味っすね~」


 話している内容こそえげつないものではあるものの満面の笑みを浮かべている。子供たちよりも助手でありバイトであるコイツの方が不気味だと秋吉は思う。


「で、ここまで話しておいて何ですが、炎水村は祭りのあと必ずひとりいなくなる――だったっすね」


「ああ。それは怪異庁ではどうにもできない神隠し案件らしいが、今回の事件。一樹、お前はもうすでにお見通し、なんだよな」


「こんなのが神隠しなワケないじゃないっすか。今回行われたのは、ただの殺人。しかも六人全員まとめて殺すなんて普通じゃないっすね~」


「怪異か……」


「そうっす。で、ちょいとばかし話題変えるっすけど、秋吉さんこのアプリを知ってます?」


「アプリ? ゲームとか電子マネーぐらいなら分からんでもないが」


 秋吉は三十代後半という比較的若い年代ではあるものの、携帯端末を頻繁にいじっているような様子はない。

 そのせいか未だにSNSは当然としてアプリ事情には詳しくなかった。


「ま、そうでしょうね。彼が最期に出した同人誌の最新刊。そこに書かれていたんすよ」


「何を?」


「怪異アプリ」


「はあ?」

「漫画とかで読んだことないっっすか? 汝、力を欲するか――……的な」


「そんなお手軽アプリがあってたまるか」


「そうっす。しかし、存在するのは確かっす。彼がのこした情報によると、真夜中に突然メッセージが送られてきて、そのURLにアクセスするとアプリのダウンロード画面に切り替わって――と、ここまでならいいんすけど、その後、それを見た人の頭の中に声が響いてくるそうっす」


「……まさかとは思うが、力が欲しいか、っていう定番のアレか」


「そんな感じっす。実際、彼はそのアプリを使用したっていう人何人かに話を聞いたみたいっすけど、全員そういう感じの声が聞こえたそうっす」


「使用したってことはダウンロードしたってことだよな」


「アプリを使用する際に個人情報を入力してアカウント取得するという流れがあるはずっすけど、それが無くて、気づいたら何らかの力に目覚めてた、ということもなくだからといって高額請求もされなかったというつまんない話っす」


「そりゃ確かにつまらんな」


「けど、怪異アプリに関してはボクのクラスでも噂になってるし、実際そういうメッセージが送られてきた子に見せてもらったっすけど……あれは恐らく、適正のある子にしか作動しない仕組みになってそうっすね」


「適正、ねぇ……」


「で、今回の犯人はどうやら適正があったんじゃないかって思うんすよ」


「じゃあ、村の伝承関係なくね?」


「それがそうでもないんすよ」


「何でだ?」


「秋吉さん。ボクが何なのか忘れたっすか?」


「忘れるワケねーだろ」


「ボクは元人間で、怪異の命を与えられて怪異化させられた【人造雷】。怪異の中の怪異っす。だから、怪異化したばかりの若造なんて相手にならないっす。だけど、それをうまく利用した奴もいるっす」


 今回の事件はそんなもんっす、とそれきり村に到着するまでの二時間。これ以上、何か語ることもなく、少年はただ楽しそうに笑っていた。

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