大学生六人行方不明事件 ②
炎水村に古くから伝わる伝承——それは、炎の神によって土地が飢え乾き人々が苦しんでいたのを水の神が救った。
という、シンプルでありきたりなお話。
どこにでもありそうでなさそうな話ではあるが、秋吉が伝承についての確認を行ったところ、村長が追加情報として『水の神様は炎の神様を罰するどころかその行いを許し、互いに手を取り合い、この村を豊かにしてくれたんじゃよ』との事。
相反する属性である炎と水が仲良く手を取り合うとは実に都合の良い解釈だと思うが、さらに村長曰く『それもこれも、村にある祠で祈りを捧げていてくれた巫女様が自らを生贄にしたからなんじゃ』という。
こうして、炎水村が誕生し、土地が豊かになったという十月に祭が開催されるようになった。しかし、祭の裏ではこんな噂が十年前から囁かれるようになった。
『祭が終わると一人いなくなる』
と。そのことについて村長は『親戚の子供が行方不明になっての。村人総出で探したんじゃが、見つからなかった。だから、これは怪異の仕業かもしれんと怪異庁に相談したんじゃが……人がひとりいなくなるぐらいでは動けないらしくての……』と悔しそうに当時のことを思い返していた。
怪異。
人であって人ではない存在。
あるいは人間の負の感情が具現化した恐るべきもの。
ネットの噂が集まってできた何か。
―—という具合に確固たる定義こそないものの、十日も捜索して彼らが所持していた荷物はおろか死体すら出てこないことはおかしいと判断した警察は怪異庁に退魔師を要請した。しかし、怪異庁所属の退魔師がそれに応じることができない状況であったため、怪異専門の探偵を名乗っている秋吉清司が引き受けることとなった。
炎水村の伝承を通話越しとはいえ村長に直接確認したものの、秋吉の中で何かが引っかかっていた。
「仕方ない。こういう情報はアイツに調べてもらうか……」
情報収集はある程度できるものの、分析がいまひとつ得意ではない秋吉は贔屓にしている情報屋に依頼した後、行方不明になった人物の中で最も注目度が高かった——金城大輝について聞き込みを行った。
金城大輝。二十一歳。身長182㎝。ド派手なメイクと格好をするのが大好きな男子大学生。父親は次期財務大臣と噂されている金城大悟。
小中高では常に成績トップで場を盛り上げるのが上手な明るいお調子者。周囲からは非常に慕われていたという。
その人柄故か、彼に関する証言は良いものばかりであった。
そのひとつとして、以下を挙げる。
『オレは大学でだいちゃんと友達になったんだけど、政治家の息子って感じぜんぜんなくてさー、すっげえいい奴なんだよ。頭いいし、盛り上がりそうにないオレのサークルの飲み会で先陣切ってくれてさー、いや、あん時はまーじで助かった。何故か陰キャが多く参加してて……けど、だいちゃんってそういうの関係なくふつーに接してくれるし、何なら、オレがオススメした映画見てすぐ感想くれたりして、他の奴にもそんなんだからいつ寝てんだよって感じで……だから、ホント、どこ行ってんだよ……だいちゃん、生きてますよね……』
教授と助教授からの評価も上々。
『彼のような優秀な子が何も言わずにいなくなるなんてありえないですよ』
『派手な外見してるけど、あの格好は大学生という自由な時にやるだけやって、卒業したら親父を助けられるような政治家になるって言ってたんですよ。本当にイマドキ珍しい良い子ですね』
この証言から彼が突然何も言わずに行方をくらませるような人物ではないことがよく分かった。
しかし、一人だけ違う証言をした人物がいる。
『金城さん。はい、知ってます。私、趣味がちょっと変で周りからも引かれがちなんですけど、金城さんはそんな私をバカにすることなく話を聞いてくれて嬉しかったです。で、連絡先も交換して、あ、言っておきますけど、金城さんには高校生のときから付き合ってる彼女さんがいるので、私はその、略奪とかする気なんてないですよ。むしろ、お二人の仲の良さに尊みを感じてまして……あ、じゃなくて、金城さんは彼女さんとあとサークル仲間の方達と一緒に行方不明になったんですよね。え? いなくなる前に何か不審な? そうですねー……あ、これ、役に立つか分かりませんが、誰かと口論してるのを一度だけ見たことがあります。それはいつ? ええと、確かあの村に行く一週間ぐらい前ですね。私もあの祭りに興味あったんで手伝いに行く予定だったんですけど風邪引いちゃって……ああ、そうじゃなくて、場所は大学から歩いて五分ぐらいの公園なんですけど、私、講義終わりでちょうど通りかかったんですよ。で、この間相談に乗ってもらった件で直接お礼を言いたくて声をかけようかと思ったら、髪の毛ボサボサの高校生ぐらいの男の子かな? その子がすごい剣幕で、金城さんに「お前のせいで!」とか「俺はお前を許さない!」とか、掴みかかってて、私、ああいうのすっごい苦手で怖くてうまく聞き取れなかったんですけど、ていうか、途中逃げだしちゃったんですけど……不審というか金城さんにあんなこと言う人なんて大学では見たことないから……ホント、怖かった……』
眼鏡をかけた気弱そうな女子大生の証言により、金城大輝に対して何らかの憎しみを持っている人物がいることに気付いた秋吉は彼やその家族および親類縁者を調べるべきか迷っていたところ。
「
んじゃ、あとは二人で解決できるよね、と秋吉探偵事務所所長である藤宮美月は緩く編まれた三つ編みを揺らし、いつものように自室に引きこもった。
それから三日後、秋吉は高校生を満喫している特異災害指定怪異を呼び出し、村へ向かう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます