佐倉一樹は笑わない。

まおんじゅ

怪異アプリ編

大学生六人行方不明事件 ①

「ああ、覚えてますよ。服装とか化粧がえっらい派手で目ぇ痛かったけど、思いの外ええ男でなぁ」


「……ほう、それはそれは」


「それでなぁ、金城きんじょうくんは大学を卒業したら今つきおうてる彼女と結婚するといっておってのぉ。その子も金城くんと同じくらい派手じゃったが、いまどきの若い子にしては珍しくええ子でなぁ……。

 ほんにしっかりしててなぁ、あの明るさは村中の救いじゃった。将来はええ嫁さんになるじゃろうて」


「それは是非会ってみたかったですね」


「祭の手伝いに来てくれたのはその二人と同じサークル仲間という派手な奴らが四人。合わせて六人じゃったが、みぃ~~んなええ子やった。本当じゃ。わしゃ嘘はつかん。嘘なんぞ吐いたら神様に喰われてしまうからのぉ」


「そうですか」


 ハッハッハと快活に笑う村長は今年で七十八才だというのが嘘なぐらい若々しい外見をしていた。それこそ、常に陰鬱いんうつな表情を浮かべ、落ちくぼんだ目のせいで、笑っても怖がられてしまう自分よりも随分と生き生きとしている。


 そんな彼——探偵である秋吉あきよし清司きよしは、炎水えんすい村の代表である九鬼くき総司そうじが一人で住んでいるという武家屋敷を訪ね、こうして話を聞いていた。


 今から二週間前に行方不明になった大学生六人について。


 村長が言っていた祭りの手伝いをしていたのが、金城大輝だいきと彼の仲間たち。彼らが所属しているサークルは『都市伝説研究会』という怪しげなものではあるが、現代の噂から古くから伝わる様々な伝承を調べ、実際にその土地に行き、村人や近くに住んでいる住人に取材をし、あらゆる角度から検証しているのだという。

 そして、検証結果を同人誌にし、夏あるいは冬のコミケで販売している。その活動は十五年前から続いており、一部のマニアには名が知れている。


 特にどうということのないサークル活動だが、その歴史の中で金城大輝は有名だった。高校生から友人たちと共同運営で始めた都市伝説のブログ記事を書いていたり、解説動画を作成したりとクリエイティブな事をしていた。

 時々、炎上することもあったが、見た目の派手さとは裏腹に彼はそれらの意見と真摯に向き合うために謝罪生配信を六時間近くやったこともあった。

 それもあってか、熱狂的なファンや最近知ったばかりだというライト層から支持されている彼が行方不明になったと報道された日はネットが大きくザワついた。

 特に昨年の夏と冬の両日で販売された『オレ的新解釈 超☆都市伝説』は三巻までシリーズ化されており、商業化も決定していただけに生きていてほしいという祈りの声が非常に多かった。


「しかし、警察も早くに捜索を打ち切ったとはいえ、見つからないとなると……生きてる可能性は難しいのぅ……」


 互いに話し込んでいるうちに冷めてしまった緑茶をすすりながら、悲しそうにつぶやく村長。


「何故、そう思うんですか」


「……あんた、知っておるんだろう」


「……なるほど、この村では本当に嘘は吐けないんですね」


「そうじゃ。特にこの時期は特別でな。誰かを傷つけるような嘘を吐く人間は神様に捧げられると信じられておる」


「ですが、毎年あの祭りで巫女役の十歳未満の少年少女たちが祈りを捧げることで全ては浄化される」


「よく知っておるのぅ。それで、探偵さん。あの行方不明になった彼らはどうなったんじゃ」


 全てを見透かしている鋭い視線に秋吉はまいったとばかりに肩をすくめる。


「全員、殺されました。たった一人の怪異化した存在に」


「……そうか。やはり、見間違いじゃなったか……」


「はい。村長が怪異庁に通報してくれたおかげです」


「毎年、一人足りなくなるのは神様の元へ行ったからだと思い込んでおったが——伝承も何も関係なく、この土地で殺人が起きるとは」


「ドラマだと伝承にうまく結びつけて殺人が起きるんですけど、現実は随分とお粗末でした」


「じゃろうな。どれ、とりあえず、全部教えてもらおうか」


「ええ。喜んで」


 秋吉としては満面の笑みで応じたはずだが、村長が飲んでいた緑茶を吹く。顔面を緑茶まみれにされた彼は動じることなくポケットに入れていたハンカチで拭き、それから既に解決しつつある大学生行方不明事件ならぬ大学生六人殺人事件の顛末てんまつを淡々と語り始める。

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