第55話 願う人々

 親を探す子供。仇を求めた娘。結婚の報告に来た二人。謁見に来た人々は、彼に色々な話をしては帰っていった。


「……お疲れ様です、あなた様」


「謁見が終わったね。小鈴シャオリン、疲れてない? 少し顔色を見せて」


 彼は話したい人たちがいなくなったことを確認して、薄布をめくり私に顔を見せるよう促してきた。言われた通り、顔を見せる。私自身には疲れたような感覚が少しある程度で、彼に気にされるほどではないと思う。彼は私の頬に触れて、「少し疲れてしまったようだね」と呟いた。


「あの、私、別に疲れては……」


「ごめんね、部屋に戻すから少し横になるといいよ」


 彼はそう言って私を部屋に戻そうとするけれど、私は首を横に振った。彼の少しかさついた手に触れて、「もう少し、あなた様といたくて」と話をした。


「本当? じゃあ、お茶を淹れさせよう。誰か、用意して!」


「すぐご用意いたします、陛下」


 すっと現れた影が、温かいお茶を淹れてくれる。指先を温めながらお茶を飲んでいると、彼は私におそるおそる触れてきた。


「……もしかして、あのさっきの夫婦を見て、ちょっといいなと思ってらっしゃいますか?」


「だめ……かな?」


「いいですよ」


 私もちょっと、彼と仲良くなりたかったのだ。とても私のことを大切にしてくれる彼に対して、私からも何かをしたかった。刺繍を贈る以外にも、何かを。


「あの二人、幸せになれるといいですね」


「きっと、幸せになれると思うんだ。幸せになってほしいし、ここでもそういうことができるって思いたい、のかな」


 彼は祈りを込めて、少し目を伏せながらそう言った。


「前にあなた様は私を優しいと言いましたが、こんな世界を作って皆を招いているあなた様こそ、優しいと思います。だからあの二人のように、この世界で新しい幸せを得られる人もいるんです」


 私は彼に近づいて、彼の腰かけている玉座の膝の上に手を伸ばす。彼は招くように手を伸ばしてきたから、私は彼の膝の上に少し慎重に座ってみることにした。


「あはは、いいね、こういうの。いいよ、しっかり腰かけてくれて。なんだか夫婦とか恋人みたいで、ちょっと照れるし恥ずかしいけど……」


「私達、夫婦じゃないですか」


 そうだよね、と彼はひどく沢山の感情を込めた様子の声でそう言って、私の腰に手を回す。そこに色は薄く、ただ優しい情があるから、嫌な気分にはならない。


「あなた様のお仕事の様子が見られて、今日はとてもよかったです。また、こうして傍にいさせてくださいね」

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