第54話 鬼の報告
「次の者、前へ」
その言葉に進み出たのは、一人ではなく二人だった。長い角の生えた鬼の男と、その側にそっと佇む霊の女。どんな用があってここに残ったのかと思っていると、男の方が一礼してから話し始めた。
「皇帝陛下、皇后陛下にご挨拶申し上げます。この度……この度、彼女と添い遂げるお許しをいただきに参上いたしました!」
「おや」
「まあ!」
「これは……」
彼女の方は男の大声を恥ずかしがるように顔を伏せていて、なんだか甘酸っぱいような心地がある。小声で何か男を嗜めているようだったけれど、距離があって何を言っているかはわからなかった。
「それは、いいことを聞いたね。この国で新しく生きる道を得た魂は、祝福されるべきだ」
彼は私の隣で、とても嬉しそうな顔をしている。何枚もの隔てる布を取ってこの顔を見せてやることが、一番の祝いになるような気もしていた。
「それは、とてもよいことです。ええ、ええ、良い出会いがあって良い人と巡り会えたのですから、その手を離してはいけません」
私の言葉に、二人は互いの顔を見合わせながら手を握った。
「ありがとうございます、鬼として荒れた生き方をしていた俺をここに招いてくださって……なんでもしますから、ドンドンこき使ってください!」
「あの、陛下、ありがとうございます……私も、ひとりで途方に暮れていたところを、この世界に来られてよかったです」
男の太い声と女の細い声が、同じことを言う。ここに来られてよかった、と、彼のしたことに感謝を述べていた。
「そうか、そうか。大したことはしていないから、二人で穏やかに暮らすといい。家は?」
「あの、俺の住んでる家が少し広めのところなので、彼女を迎え入れる形にしようかなと思ってます」
「嫁入り道具というほど大したのものはありませんが、服や寝具を持っていって一緒に暮らすんです」
「ねえあなた様、とても素敵な二人に何かいいものを差し上げては? 結婚には、記念品がつきものでしょう」
私の提案に、彼は「確かに」と頷いた。
「刺繍なら、色々と作っていたものがあります。手拭いにでも使ってもらったらどうかしら」
「きみの刺繍は、全部僕が欲しいんだけど……縁起のいい模様を刺したものも、確かあったものね。ひとつ、彼らにあげることにしよう」
パン、と彼が手を叩くと、女官が現れる。彼女に私が「縁起物の、赤い布に刺繍をしたものを私の部屋から取ってきて頂戴」と言うと、一度消えた彼女は無事に私が考えていた通りの物を持ってきてくれた。
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