第51話 新しいおつとめ

 前の部屋に負けず劣らず豪華な部屋に移されて、体調の良くなってきた私には新しいお勤めができた。


「僕も悩んだんだけど、何日かに一回だけ、さ。僕の隣で、話を聞いていてくれる?」


「それは……いわゆる謁見、でしょうか」


「うん」


 どこか心細そうに心配そうにしていたので、「大丈夫ですよ」と手を取って微笑みかけた。


「あなた様が、私をそういう場に連れていくと決めてくださったことが、私には嬉しいのです」


「……心配、かけちゃっていたんだね」


「妻らしいことをさせてくださいな」


 奥に囲われ、危険から遠ざけられ、ただ刺繍をするか彼を待って暮らせと言うのは――そういう夫婦も身分が高いとあると聞くけれど――まるで、人形遊びのようだから。遊ぶ時だけ取り出されて、用がない時はしまわれる。生き返らせてもらった身としてはなるほど人形のようなものだけれど、私には私の意思がある。彼が私により大きな自由と権限をくれたのなら、それをありがたく受け取る以外の選択はなかった。元より選べるものも少ない私に、選択を増やさない理由がない。


「僕の玉座の隣に、きみの席を設えさせたんだ。薄い布越しだけど、人の姿も見えるよ」


「謁見には、どんな人……、が来られるんですの?」


「色々かなあ。霊も、鬼も。たまに兄上と、お話をすることもあるよ」


 彼の兄のことは、何度も聞いていた。地上の皇帝陛下であるというから、気軽に話せないと思っていたのだけれど……案外、そうではないのかもしれない。


「皆、どんなことをお話に来られるんですか?」


「んー……例えばこの間は、自分が暮らしている家のあたりでうまく地面が固まっていないのをなんとかしてほしい、と言われて、地面を広げたりもしたよ」


 さらっととんでもないことを言われた気がする。今更だけれど。


「他には? どんなことをされたんです?」


「後は揉め事の仲裁とかもあるね。どうしても、生前のことがあったりするから。大きな恨みがある時は、お互いに認識できないようになってるけれど……それでも完全じゃないんだ」


 後宮の外の世界のことは、何を聞くのも楽しかった。彼の話を聞きながら移動しようとしたら、また抱えられてしまって歩かせてくれない。私の靴の裏がまだどれも綺麗なのは、こうやって歩かせてもらえていないからだった。


「もう、自分で歩けますのに……」


「僕がこうしたいんだよ。いいから、しばらくこうさせてね」


 彼が笑っているのは、正装で顔の前にかけている布のせいで、きっと腕に抱かれている私にしか見えなかった。

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