第44話 ぶり返し
一時はよくなった体調は、あの日以来また悪くなってしまった。私はずっと横にならざるを得なくて、眠ったり起きたりを切れ切れに繰り返すようになる。その間、何らかの術で遠ざけられていたという女官たちが私の元に戻ってきてくれたのは嬉しかった。消されたりしてしまったわけではなくて、本当に良かった。
「皇后さま、ゆっくりお休みになってください。皇帝陛下が皇后さまのご寝所を、より厳重な場所へ移し替えになるそうです。お引越しまで、よく眠られた方がよいかと」
そう言ってくれた杏杏の言葉に頷いたのが、夢か現実かはよくわからなかった。自分が今眠っているのか、起きているのかもよくわからない。目の前に誰かがいる気がするのが現実のような気がするし、会話をしたのは夢のような気がする。
「皇后さま」
「小鈴」
「お熱が高いようですね。熱さましの薬湯をお持ちしました」
何かを飲んだのは、多分現実だったような気がする。甘味で誤魔化された苦味が舌に広がって、頭痛と眠気と熱い感覚が少し鎮まった。彼が私の体を抱き上げ、額に口づけてたのは、実際にあったことであって欲しかった。
「……少し良くなったかな? ああ、あそこに彼女を連れて行こう。少しは回復が早くなるかもしれないし」
私を抱き上げた彼が、どこかに出かけていくのがわかった。階段を下りて、地下へ降りていくのがわかる。私の体が揺れる間、目が勝手に閉じたり開いたりする。知らない景色はあの部屋からどこの階段に降りていくのかもわからなくて、どこに行ってどうなるのかは彼の胸三寸だった。
—―しばらくして、階段が終わったのがわかった。彼が私の体を、気持ちよく温かい湯に浸した。体に布が張り付く感触。髪を撫でられて、なんとか目を開く。彼は私を寝かせたお湯を溜めている浴槽の淵に腰かけていて、私を撫でているようだった。
「ぁ……」
「目、覚めた? どうかな、体調は」
「ん……ここは温かくて、気持ちがいい、です。お風呂、ですか?」
「まあ、そんなところかな」
彼はそう言って、目に見えて安心した顔をした。手足を動かしてみようとするが、それには失敗する。どうやら、まだそこまでは体力が戻っていなかったようだ。
「ぁの、あなた様……手、怪我、は」
「まだ気にしているの? ほら、大丈夫だよ」
彼が差し出してくれた手を、体が動かないからじっくりと眺めた。うっすらとした傷跡さえもなく、綺麗に治っていた。このまま休んでいれば、きっと全部が元に戻るんだろうかと思えたほどだった。
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