第19話 贈り物をもらう

「僕のかわいい小鈴シャオリン。そうだ、きみに贈り物をあげようと思っていたんだ」


 しばらく私を撫でていた彼は、ぽんと手を叩いた。私の膝を枕にしたまま、彼は右手の人差し指と中指を立てて動かしながら、何かの呪文を唱える。その動きの軌跡が青白い光の糸になって動き、星の形を描いた。


「手を出して」


 言われるままに両手を出す。すると、青白い星がくるりと回って私の手に乗った。何が始まるんだろう、と思っていると、その星が一回り二回り大きくなって、ことん、と何か重いものが落ちてくる。


「これ、は……?」


「いくら葉夫人がいるとはいえ、きみ一人で寂しくなってるかもしれないなあって思ってね。僕の使役している水鬼の一種だよ」


 水晶か玻璃でできた球体の中で、人魚が泳いでいた。中は水で満たされていて、赤い尾に赤い髪、赤い目。白い肌に少女の上半身と、赤い金魚の下半身が、恐らく赤い糸で結びつけられていた。彼女は私と目が合うと、にっこりと微笑んで小さな手を振る。


「この子には、まだ名前を付けていないんだ。きみがつけて、かわいがってやってほしい。きみのために用意した子だからね。それなりに話もできるし、いざとなったらきみを守れるし、この玉から出して遊んであげることもできる。どう遊んでやってもいいよ、もし壊れちゃったら代わりも用意できるから」


「そんな、代わりだなんて……でも、名前、ですか」


 少女は自分の創造主に消耗品めいた扱いをされていることにも、恐らく気づいてはいないようだった。そして彼は、私が心底喜ぶと思ってこの贈り物を用意し、私の喜ぶ顔が見たいと思って渡してきたのだ。それに対して何か言おうかと少し思ったけれど、本当に期待している顔をされては言いづらかった。


「うん、この子の名前」


「……なんだか、赤ちゃんができた時みたいですね」


 言ったら恥ずかしくなってきた。彼も少し目を伏せて「積極的だね……?」なんて言ってくる。何か誤解をさせてしまったような気がするけれど、その誤解をうまく解くための言葉が思いつかない。


小鈴シャオリン、この子の名前はじっくり考えてくれていいからね。エサは……そうだね、真珠を部屋に運ばせるから、あげて。中に手を入れたい、触れたいって思えば、その通りにできるんだ」


「まあ、すごい」


 試しに、と渡された丸く小さな真珠の粒。それを持って恐る恐る、中に入りたいと思いながら水の球に触れてみる。すると、私の手は不思議と水の球の中に入っていて、人魚が私の手を興味深そうな顔で見ていた。真珠の粒に気付いて嬉しそうに口に入れる姿は、かわいいものだった。

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