第18話 花を愛でる、彼と話す
「きみは、花と刺繍が好きだったからね。ここに長居しては体に障ってしまうけれど、見せる分には問題ないと判断したんだ。ずっと眺めていてくれて、嬉しいよ」
彼はどうして、私がそういうのを好きなのかを知っているのだろう。それはわからないけれど、あまり教えてくれそうになかった。降り注ぐ花を見上げていると、彼がそっと私の肩を抱いてきた。相変わらず、壊れ物を扱うように抱きしめられてくるから、悪い気はしない。ほんのりと体温のある手に頬や髪を撫でられた。
「
「ええ」
彼が用意してくれたのは、上品な餡子を柔らかい皮で包んだ饅頭だった。私が食べる姿をニコニコと彼は眺めているけれど、私が「食べないんですか?」と聞くと、「ああ、そうだね」と言って饅頭に口をつけた。
「聞いたのですけれど……、あなた様だけは生きていらっしゃる、じゃないですか。この世界の中で。だったら、ご飯は食べないと、いけませんよ」
彼は私にそう言われて、目を見開いたように見えた。にこにこ笑っていた彼の笑みが、一瞬消えたことにぞくっとする。怖かった。何故か、怖いと思ってしまった。私には何ひとつ、害意や悪意を向けてきたことのない人なのに。
「ああ、でも、そうだったね。僕だけは、ご飯をちゃんと食べないと……でも、きみも食べるんだよ。今のきみの体を維持するのに、きみも何かを食べないといけないから。この世界でご飯を食べる必要があるのは、僕ときみだけだからね」
「……わかりました」
どうやって食事は用意されているんだろう、とかを思った。幽霊たちの世界で、当たり前のように飲み物や食べ物が用意されているこれは、何なのだろうと。けれど彼は私の膝の上に頭を乗せて寝転がってきて甘えてくるから、その頭を撫でる方に意識が行く。
—―彼と話していると、よくこうなる。頭がぼんやりしたり、思考がふわふわとしたり。彼といる時の私は、一人でいる時の私とは絶対に違う。けれど、それを上手に伝えられたことはなかった。
「ほら、お口を開けて」
自然と言われるままに口を開くと、彼は私の口に半分にした饅頭を入れてくれた。もぐもぐ、と咀嚼する。おいしい。彼は私がものを食べている姿を見ているのが、好きなようだった。
「ん……やっぱり、おいしいです」
「ふふ。用意させて良かったよ」
彼はそう言って私の膝に頭を乗せたまま、すりすりとお腹に頬を摺り寄せてきた。
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