第17話 結晶の花、花見の宴席

 細かく薄い、結晶の花が降り注ぐ光景はキラキラしていた。薄暗く柔らかい、昼も夜もない空。誰かが私の到着を告げる声を上げた。


「皇后陛下、ご到着されました!」


 あの人はまだ来ておられないようだったけれど、準備はすでに整えられていた。宮殿の庭に大きく太い木が生えていて、その花が桜か梅のようにはらはらと零れ落ちている。緋色の敷物の上に凝った細工の座椅子が置かれていて、女官に座らせてもらった。


「皇帝陛下は、もうすぐ来られますからね」


 女官の誰かがそう言った通り、あまり待ちすぎることもなくあの人は来てくださった。金と銀の糸によって大きな龍の刺繍を施されたお着物を着て、冠を被った人が私に微笑みかけてくれる。漆塗りの酒器が手渡されて、そこに甘い匂いのする酒が注がれた。今日は外に出て気分が違うからか、今までよりは少し体が動かしやすい気がする。


「あなた様、ここはとても綺麗な場所ですね」


「よかった……小鈴シャオリンならきっと、喜んでくれると思ったんだ」


 彼は私に「飲んでみて」と勧めてきたので、言われたとおりにお酒を一口飲んだ。甘い花と菓子を混ぜた香りの中に、酒精が混じっている。味は蜂蜜のように甘くて、おいしかった。そういえば、生前はお酒を結局飲んだことはなかったっけ。


「この桜は、僕がこの世界を作り上げた時に最初に植えた起点の場所でね。とても大切な場所で、綺麗に仕上がったから気に入っているんだ。時々、こうやって結晶でできた花が咲くんだけど、触っても危なくはないよ」


「結晶は……何かが、凝ったもの、でしょうか?」


 なんとなくそう思ったことを素直に呟いてみると、彼は明らかに喜んだ顔をした。「よく気づいてくれたね!」と褒められると、やっぱり悪い気はしない。


「悪霊は地下に閉じ込めるって言ったろう? 地下に閉じ込めた悪霊の、恨みや悲しみや怒りの念はね。地下で沢山の土と石の中に沁み入らせて、この木に吸い上げられるんだ。そうして、綺麗な花になる。咲いた花が散って消えれば、そういう念も鎮めることができるんだ」


「まあ……すごいです」


 私の手に乗った誰かの恨みの念の花弁は、まるで雪が体温に溶けるように消え去っていった。彼は私の横で、花弁の乗ったまま盃を煽っている。


「おなか、壊しませんか?」


「ああ、僕は慣れているから。心配してくれてありがとうね」


 そう言って恨みの念ごと飲み干していく姿は、この世界を治める皇帝として見るにふさわしいものだった。

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