第16話 お出かけのお誘い

 最近は、前より体がだんだん動くようになってきた。といっても、歩き回れるほどではない。体を起こして本を読んだり針仕事をしたりするのが、疲労で中断されなくなった程度のことだ。


「皇后さま、皇帝陛下からお誘いがありましたよ」


「お誘い?」


「ええ。綺麗な結晶花が咲いたそうですから、生きていた頃の言い方に倣うなら、お花見ですわね」


 葉夫人にそう言われて、私は頷いた。夫人や女官たちに着せ替えられて、今までよりも外向きの綺麗な服になる。宝飾品もいくつか身に着けてみる。無数の小さな石で飾り立てられた首飾りや、金属で編まれた冠、大粒の石の耳飾り。それらは重くずっしりとしていて、ただでさえ疲れ気味は私はこれをつけて出かけられる気がしなくなってしまった。


「とても、綺麗よ。綺麗、なのだけれど……ごめんなさい、これらは一回外していいかしら? その、重くて……」


「あら! 失礼いたしました。皇后さまは長患いをしていらしたんですもの、確かに最初は身軽な方がよろしいでしょうね」


 そう言った女官たちが手早く飾を外してくれて、私は身軽になった。緩やかな着物の帯はそれでもいつもより、少ししっかり締めてもらった。化粧台にも腰かけさせられて、生前でも見たことがないような高そうな化粧品が顔に塗られていく。人形のように白くなれる白粉、牡丹の花のように真っ赤な口紅に桃色の頬紅。それらを塗られている間、私はおとなしく目を閉じていて――目を開けて自分の姿を見てみると、自分の姿だとはまったく思えなかった。


「私じゃないみたい……」


 ずき、と一瞬頭痛が走る。でも、せっかく準備もしたんだから、絶対に行きたいと誰にも言わないことにした。葉夫人が何故か手巾で涙ぐみ、女官たちが「お美しい皇后さま」とほめそやしている。


「こんなにお美しい姿になられては、ますます皇帝陛下からのご寵愛も深まるというもの」


「まるで一幅の絵のように、美しいお二人となるのでしょうね」


「まあ、そうだわ、絵師を呼んできて描いてもらいましょうよ」


「では私が、皇帝陛下の元にお許しを貰いに行ってきますわね」


 私の周囲で飛び交った言葉に何か返すより先に、女官の一人が煙のように消えてしまった。一瞬、風が壁の方へと吹いていったのは、彼女が壁を抜けていった証なのだろう。しばらくして戻ってきた彼女は「お許しがいただけましたわ!」と喜んでいて、私以外の皆がとても喜んでいた。


「あの、本当に喜んでくださるかしら……」


「「「もちろん!」」」


 皆、声がそろっていた。

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