第14話 皇后のお仕事

「皇后さまのお仕事は、まずはお体を癒すこと。それから、皇帝陛下を慰めることです」


 葉夫人にそう言われてから、私はまた何度も眠ったり起きたりを繰り返していた。あの人は昼と夜を作ると言っていたけれど、まだできていないのだろう。その間、窓の景色は変わることがなかった。


「皇帝陛下がお越しです」


「……ええ」


 何も言わなくてもいいのに、彼は毎回先ぶれをくれる。彼が来ると、私の体はうまく動かない日の方が少し多い気がした。最初の頃ほど一切動かないということはなかったけれど、やっぱり彼がいない時よりも自由がない。鎖か何かで戒められているような気もするし、そうではない気もした。


「やあ、小鈴シャオリン。昼と夜を作るの、結構大変なんだ。癒してくれー……」


「陛下……」


 私に抱き着く彼の背にそっと手を回し、よしよし、と小さい子にするように撫でてみる。何度か交流してみてわかったのだけれど、彼はこういう触れ合いが嫌いではないようだった。犬か猫がするように私の胸に顔をうずめるのも好きみたいだけれど、触られても減るものでもないしとそのままにしている。


「きみのために頑張らないとってわかってるんだけれどね……本当に、大変。今はこの空模様で安定しているんだけどさ、その安定を崩して空模様を変えるわけだからー……それが難しくって」


 私にはわからない、難しい専門的な言葉がつらつらと彼の口からこぼれる。それをじっと聞いてみても、残念ながら言っていることは半分もわからなかった。陰陽のつり合いがどうとか、鏡の術がどうとか、色々あるらしい。


「この間の、悪霊、は……」


 話の切れ目に小さくそう話しかけてみると、「ああ、悪霊は地下に入れるんですよ」と彼は何でもないことのように言った。


「悪霊が普通の霊に悪さをしてしまってはいけませんからね。そこをしっかり区分けするのが、僕の仕事です。悪霊が恨みとか悲しみとか怒りを置いていけるようになるまで、地下で文字通りに頭を冷やしてもらうんです」


「消したり、は……しないんですね」


「そりゃあ悪霊だって、僕の民には違いないからね」


 私は悪霊だなんて他人に危害を加えるような存在を、自分の民だと迷いなく言い切った彼に尊敬の念を覚えた。もし私が同じように霊達を統治するとしたら、悪霊も自分の民とは言えないかもしれない。そんなことを思っていると、彼が私の手に頭を少しこすりつけてきた。猫に昔してやっていたように――あと、誰かに――頭をなでてやると、彼は子供のように笑った。

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