第10話 あなたのことを知りたい

「……ぁの、あなたのこと、知りたいんです。こんなに、よくしてもらって……どうして、かなって」


 お茶とお菓子で温まった口から、するりとそんな言葉が漏れた。彼は一瞬呆けたような顔を見せた後、穏やかに笑う。


「きみがその……殺されてから、僕も結構変わってしまったからね。だから、きみが覚えていなくても仕方ないよ」


 髪を撫でられる。それから、私の唇に人差し指をあてられた。


「僕の名前は、内緒。いつか、きみに気付いてほしいから……なんてね。今はここで皇帝をしているけれど、元々は道士だったんだ。あんまり強いほうじゃなかったんだけどね。今のきみの体も、僕が術を使って作ったんだ」


「どうして……私は、他の人とは、違う体になってるんです?」


 少しずつ、口が重くなる気がする。体も。呼びつけられた女官も、夫人も、くるくる動き回れるのに。


「だって、僕がきみに触れたかったんだもの。その分、きみの体には負担をかけてしまっているのは申し訳ないけれど……大丈夫。僕がついてるからね」


 優しくなでられると、ひどく安心できる気がした。温かい手のひらから陽の気が注ぎ込まれているかのように、ぽかぽかと温かい。


「……ありがとう、ございます」


 お礼を言うと、彼は「どういたしまして」と茶目っ気多めに言ってくれた。まだどういう人なのか、理解が薄いからか……笑ってくれると安心する。


「この世界のことも、僕のことも、好きになってくれると嬉しいな。ここは……きみと暮らすために作ったようなものだから」


 え、と聞き返したけれど、「だって僕はそれだけ、君が恋しかったんだ」と流されてしまった。絶対それだけではない気がする。気がするんだけれど、今までと変わらない笑顔だけれど、聞かせてくれない顔をしていた。


「あ、そうだ! 少し調子がよくなってきたみたいだし、町……ううん、町はまだちょっと早いから、このお城を案内してあげようね。もちろん、この僕直々が」


「起きられる、でしょうか……」


 大丈夫だよ、と言って彼は、私のことをあっさりと抱え上げてしまった。姫君か花嫁のように丁寧に横抱きにされて、彼のぬくもりが体のあちこちから伝わってくる。


「これなら、小鈴シャオリンの体がまだ悪くても大丈夫でしょう? 僕にしっかり捕まっていてね」


「はい」


 私はそう言って、夫の服を少しだけ掴んだ。皴になったらいけないだろう、高い生地の感触がしたので慎重に。私の服も同じような綺麗な布で作られているけれど、慣れることはできそうになかった。

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