第6話 微睡の中の日々
それからは長い間、眠っては目覚めてを繰り返した。体がずっとだるくて、眠くて、でもそんな状態の私を皇帝陛下だというあの人はよく見まいに来ていた。来てくださっている時は起き上がりたいのに、初めて会った時以来、一度もしっかり目を覚まして起き上がってお話をできていない。
「かわいい人、ゆっくり力を溜めていっておくれ。すまないね、僕が計算を誤ってしまったらしい。でも、早く君に会いたかったんだ」
時折、そう言って甘いお茶を口に流し込まれた。彼は少女が人形で遊ぶように、私のうまく動かない手足を撫で、体を起こし、眼だけは開く私に蕩けるような笑顔を見せてくれていた。睦言を囁くように私にそう言って、髪を掬うこともあった。
「皇后様、おみ足を洗いましょうね」
夫人といる時は、何故か私の調子がいい気がした。というよりは、あの人といない時、だろうか。私が皇后であの人が皇帝ということは、私の夫なのに。私にいたはずの婚約者も、死者の国では関係ないのだろうか。それとも、会ったこともなくて一族の巻き添えで死んだ女なら惜しくないと、売り渡されたのだろうか。
そんなことを考えられる日もさほど多くなくて、私はただ漠然と時を過ごしていることのほうが多かった。死者の国なだけあってか、ここでは壁も扉も意味を持たない。揃いの服を着た使用人達は時折、壁を抜けては滑るように部屋に入ってきては、掃除をしたり簡単な食べ物を置いていくことがあった。私に姿を見せず、仕事をして帰っていくこともあった。基準はわからない。もしかしたら、彼らは自分がその気になった時だけ姿を見せられるのかもしれない。
「皇后様は本当に、体のどこをとっても美しいですわね。皇帝陛下は本当に、よいお嫁様を貰われました。早くほかの皆にもお披露目したいのですが、皇帝陛下にはお考えがあるようですからねぇ」
「……どんな。あの、人のこと、教えてほしい、です」
その時は、久しぶりに声を出せた。私がやっと出したお願いを、夫人はにこにことうなづいて聞いてくれる。
「それじゃあ、どれから話しましょうかしらねぇ。皇帝陛下がこの世界をお作りになり、私たちをここに招き入れた時のことからお話ししましょうか?」
なんとか重い頭を起こして、「おねがい」と言った。それだけでまた眠気が来る。死んだ体だというのに、どうしてこうも不便なのだろう?
「次に目を覚まされたら、お話ししてあげますね。だから、まずはお休みください」
気づけばまた、瞼がとろりと重くなって目を閉じていた。
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