第4話 今の私と、あの人のこと

 最初に思ったのは、どうして、ということだった。私は何故、こんなところで、甦らされているのだろう。そもそも。


「私達は、一族を皆殺しにされたはず。私も……首を、切り落とされて」


「ええ。先の暴虐帝はいたずらに人を殺し、その魂を祀り慰めることを禁じ、街には死霊と怨みと血が溢れました。皇后様の御体も一度朽ちてしまいましたが、主上が御自ら骨と魂魄を集められ、今のお姿となさしめました」


 かすかに、思い出す。記憶の中に、知らない景色がある。大きな穴が掘られた中に、次々に重いものを投げ込まれる音がする。私のことも誰かが抱えて、穴へと投げ込まれた。動けない。首と胴体が離れてるからだ。見上げた先には穴があって、空が見える。染めたばかりの布のように真っ青で、眩しい空。空は遠かった。晴れていた。


『ああ、どうか、どうか、祟ってくれるなよ……』


『おうい、さっさと火をつけろ! 焼かないといけないのはここだけじゃないんだぞ!』


 兵隊らしき野太い声が聞こえて、私が見上げていた空に松明が投げ込まれる。それから、炎。


「皇后陛下、ここは不慮の死を遂げたモノや賛同した人ならぬモノ達が暮らす場所にございます。生けるものに害を加えることなく、心残りが晴れるまで暮らすための場所。神として祀られるほどではなく、子孫の供養もなく、妖魔に堕ちるほどの恨みもなく漂うモノ達を、主上は受け入れてくださいました」


「そっか。私達も、一族みんな死んじゃったから供養されなかったんだ……」


 供養してくれる子孫がいなくては、あの世で使える紙銭もない。香をもらうこともできない。それはかなり大変だと言うことを、かつてのお伽話で聞いた気がした。


「主上は、貴女様が目を覚まされることを大層待ち望んでおられました。今御身を覆っていらっしゃる服も、様々な飾りも、このお部屋の調度品も香木も、すべて主上が貴女様のためにご用意されたものです」


「まあ……!」


 幾重にも重ねられた布は、すべて色合いの違う赤い色だった。赤と白は婚礼衣装の色。あの人はどうして、そんなに私のことを待っていたのだろう。知っている人かと思ったのだけれど、やっぱり思い出せなかった。


「でも……私、あの人には、何もできないわ。刺繍くらいしか、取り柄がなかったもの」


「ただ、笑っていてくださいませ。きっと、それでよう御座いますよ」


 もっと話を聞きたかったのに、段々体の力がうまく入らなくなってきた。あらあら、と夫人が私を寝台に横たえる。そのまま、気づけば私はまた眠り込んでしまっていた。

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