第3話 自分の姿を見る
「あんなにご機嫌な主上を見るのは、初めてかもしれませんねぇ」
眠って目を覚ましても、夢のような豪華な部屋の中にいる自分の状況は変わらなかった。夫人は私に綺麗な服を着せて、体を起こしてくれる。不思議なほどに硬い体は、まるで人形のようだった。
「しゅ、じょう……?」
それは皇帝陛下に使われる名前で、間違ってもあんな若々しい見目の人ではなかったはずだ。あの人の髪は白かったけれど、顔は青年だった。
「ここのこと、教えて差し上げますね。私は
「!?」
とんでもない尊称で呼ばれて、硬い体でも瞼を見開けてしまった。びっくりしすぎて。一族には確かに妃になっていた人がいたけれど、皇后はいなかったし、間違いなく私のことではない。私がお嫁に行くはずだった人は、――あれ、うまく思い出せない。沢山調べたのに、沢山お話を誰かから聞いて、夢を膨らませていたはずなのに。ぽっかりと開いた空白が気持ち悪くて、怖かった。皇族とかの、偉い人ではなかったはすだ。それだけは確かだった。ほとんど平民のように暮らしていた私に、雲の上の人のお嫁さんだなんて務まらない。
「ここは、
そう言って夫人は私に一礼した後、一枚の鏡を取り出してきた。初めて見る、ぞっとするほど綺麗に映す鏡。
「これ、は……?」
「初めてご覧になりますか。玻璃で出来た鏡でございます。ここに映っていらっしゃるお姿が、現在の皇后陛下であらせられますよ」
ひっ、と小さく悲鳴が漏れた。鏡に映っている私の姿は――どう見ても、生きてはいなかった。黒い瞳は、色合いが私の覚えている私の目ではない。髪はいい匂いのする油で艶々と手入れされていて、最期のボサボサな髪とは雲泥の差。そもそも、生きていた頃でさえこんな髪になったことはないほどだった。薄い布を何枚も重ねてあちこちに金や銀の刺繍がついた、玉留めのない着物。額には何かの紋様が赤黒い模様で描かれていて、字のようにも絵のようにも見える。顔色は文字通り死人のように青白く、たっぷりとした布の中から垣間見える手首には縫い目のような模様があった。血色のない顔の中で、唇は血のように赤い。最期にそう願ったように。
「今の皇后陛下は、この
私がうまく動かない中でなんとか目線を動かすと、同じように鏡像も動く。鏡は残酷なほど、私が動く死体であることを知らしめていた。
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