第2話 死んだはずなのに目を覚ます
ちりん、ちりん、と鈴の鳴る音が、私を揺らした。揺らして、揺らして――ゆすぶって。ふわふわとした寝起きの意識の中で、音と振動の次に感じたのは、匂いだった。花や自然の匂いではなく、何かの香木を焚きしめたような香りが鼻をくすぐる。
「――――……」
「……りん、玉鈴。目を覚ましてくれ、
名前を呼ばれて、頭がはっきりとした。だれかしら。とうさんじゃない、ひくいこえ。にいさんでもない。誰かが、私を呼んでいる。おとこの、ひと。体はひどく重くて、全身の部位がバラバラになってしまったようで、指の一本さえもうまく動かせる気がしなくて。瞼を開こうと思っても、たったそれだけのことがうまくいかなかった。
なんとか目を抉じ開けると、男の人の顔があった。横になっている私の顔を覗き込んでいる、端正な顔立ちが見える。老人のように白い髪をしているというのに、顔は若かった。その瞳は透き通った青い色をしていて、どこかで見たことがあるような顔立ちをしている。けれど、こんな知り合いはいなかったはずだ。思い出せない。声も出せない。目を開けたところで体力が尽きたのか、体はまた動かせなくなっていた。
「
少しだけ、首を横に振ることができた。体がうまく動かないということをなんとか伝えようとするけれど、声は変わらず出ないままだった。
何度も
「ぁ……の、わた、し」
やっと振り絞った声は、自分の声ではないようだった。頰に触れる自分自身の髪の感触さえ、自分のものではないかのようだ。
正月に挨拶に行った
「無理をしないで、かわいい
何か言いたかったのに、思考がうまく纏まらない。けれど男が手を叩くと、部屋に何か青白い光の玉が飛び込んできた。鬼火だ。死んで散った魂魄のうち、人魂と地魂だけが浮いている存在、と習った気がする。そうだ、そういうのに詳しい友達がいた。あの子は今、どうしてるのかな。生きてるのかな。
「彼女は僕の后、この世界で最も貴い女性だ。今は体がうまく動かせないだろうけど、無礼のないように扱いなさい。わかったね? 夫人」
すると、鬼火がくるりと女性に転じた。母さんくらいの年頃の、笑い皺のある少し丸い女性に変わる。
「仰せつかりました、陛下」
彼女はそう言って深々と一礼する。陛下と呼ばれた男の人が私の髪をひどく切ない顔で撫でたところで、私の意識はまた暗闇の眠りに落ちてしまった。
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