第29話 襲撃者②

「それで、残りのお三方は、今日は見ただけで帰るのかな?」


 エイクのその言葉に応えるように、白色の仮面をつけた3人の人物が正面の入り口から室内に入って来る。


 1人目はエイクよりも一回りも大きな体躯を誇る巨漢で、板金鎧を身につけ、タワーシールドとロングソードを手にしている。板金鎧は動きやすさを重視して、板金で補強された部分を減らし、音が出にくいように加工されたものだ。

 2人目の人物は小柄で華奢な体格の女性で、暗褐色のローブを身に着けていた。

 3人目も同じようなローブを着た男だったが、その下にはチェインメイルを着ているようだ。

 3人の被った仮面はどれも同じ作りで、目じりを下げ口角を極端に上げた笑顔を、あえて不気味に模式化したようなものだった。


 先頭の板金鎧の男を睨み付けながらエイクが口を開いた。

「ロドリゴ・イシュモス伯爵御令息様がおいでとは、フォルカス・ローリンゲン侯爵様が黒幕というのは、事実だったようですね」

 板金鎧の男は仮面を外す。その晒された顔は、確かにロドリゴだった。


「よくわかったな」

「あんたと何回“訓練”をしたと思っている。立ち居振る舞いで直ぐに分かる。それで、わざわざ顔を見せてくれたって事は、この場で俺を殺すつもりってことかな?」

「ああそうとも」

「出来るか? あんたに」


 エイクは、そういいながら、油断なくロドリゴの後ろの二人を伺う。

 二人とも武術の心得はあるようだった。

 女の方はおそらく軽い武器を専門に扱う軽戦士の技術を身に着けている。男は普通に戦士だろう。

 しかしその技量は、女の方こそ最初の襲撃者たちよりも腕が立ちそうだったが、それでもエイクが脅威を感じるほどではないし、男の方に至っては最初の襲撃者たちよりも弱そうだった。

 だが、ロドリゴは自信あり気に答えた。

「ああ、出来るさ。俺たちにならな」


 その言葉は、ロドリゴはエイクが強くなったことを既に承知しているという事、そしてそれでもなお、同行者と供に戦えば勝てると確信している事を示していた。

 それはそうだろう。最初の襲撃者6人を犠牲にまでしてエイクの今の実力を測り、その上で乗り込んで来たのだから。

 しかし同行者の戦士としての能力はそれほどでもない。つまり、ロドリゴはその同行者たちの、戦士として以外の能力に期待しているということだ。


 そして、先ほどリーリアから聞いたあの呪文。

 一つの可能性を導き出したエイクは、最初に後方の2人を倒そうと動いた。特に最優先で狙うのは最後尾の男だ。


 しかし、ロドリゴがそれを許さない。

 彼は腐っても王国でも有数の戦士、特に貴人を守るべき騎士として鍛えられた戦士だった。他者を守ろうとするその動きは、今のエイクをもってしても振り払えるものではない。


 エイクは目標をロドリゴに変えて攻撃を放った。

 その攻撃は肩口を捉えたが、板金に阻まれ先の襲撃者に対するほどの有効打にはなっていない。

 また、ロドリゴはその身の防御力を強化する錬生術を用いていた。

 それでも、板金を震わせる衝撃だけでもそれなりのダメージはあるはずだった。


「癒しを!」

 すかさず後方の女が魔法を発動させる。中位回復魔法だ。

 ロドリゴの受けたダメージは完全に回復した。

「神よ、その大いなる御手を以って我らが敵を撃ち果たし給え」

 その最後尾に控えた男の言葉とともに、激しい衝撃がエイクを襲う。

 それは“神の拳”と呼ばれる上位の神聖術師のみが扱える攻撃魔法で、一般に神聖魔法の中ではもっとも効果的な攻撃魔法と言われているものだった。


「くッ」

 思わずエイクも声を漏らす。

 魔法によるダメージは、精神を奮い起こして抵抗することで大幅に軽減できる。エイクもそれに成功した。しかし、ゼロには出来ない。そして、魔法の攻撃は避けることも不可能だ。


(やはり、闇司祭か)

 後方の二人が使ったのはいずれも神聖魔法。しかし、真っ当な神聖術師が闇の神を称える魔道具を扱う者と手を組むはずがない。

 戦いを肯定する戦神トゥーゲルの神官でもありえない。

 つまり敵は闇の神々に仕える闇司祭、普通に考えるならば幻惑神ネメトの信徒だろう。


 3人の連携は単純だが効果的だった。

 守りに長けた騎士が後方の2人を守護する。守護された2人の内一人は回復魔法で騎士を援護し、もう1人が攻撃魔法で確実にダメージを与える。

 相手が武器での直接攻撃しか出来ない唯の戦士なら、この連携の前にほとんど勝ち目はない。

 エイクも覚悟を決めるしかなかった。

 ―――余り、出し惜しみをする余裕はないな。


 そう考えると、エイクは錬生術を発動させる。

 13歳の頃からオドの流れを感じていたエイクは、既に錬生術に熟達していた。しかしそのことを誰にも教えていなかった。結局彼には、父が死んだ後、心から信じた相手は誰一人いなかったのだ。


 その術を今発動させる。洞察力と敏捷性と筋力を強化し、更に念のため魔法によるダメージを軽減させる錬生術も使用した。

 そして渾身の力を込めてダメージ重視の攻撃を繰り出すべくバスタードソードを構え直す。


 筋力を強化したのは、もちろん与えるダメージを少しでも多くするため。

 敏捷性の強化はダメージ重視の攻撃を行う結果疎かになってしまう回避を補助するため。

 そして、洞察力の強化は、普通は攻撃を当て易くする効果があるが、エイクの場合はそれだけではない。より効果的な場所に攻撃を当て易くする為だ。


 こうした準備を瞬時に行ったエイクは、躊躇いなくバスタードソードを突き出した。

 その攻撃は、早さも力強さも、それまでエイクが放っていたものとは段違いだった。エイクは、その一撃に今迄隠していた己の力を、余すところなく乗せていた。

 ロドリゴは全く反応できず、エイクのバスタードソードは、ロドリゴの腹部――最低限の動きを確保するために板金に可動域を持たせた部分――の、板金の僅かな隙間に的確に叩き込まれ、剣の中ほどまで深々と突き刺さった。そして、即座に抉るように引き抜かれる。


「ごふぅッ」

 ロドリゴの口からそんな声と共に大量の血が吐き出され、腹の傷からも血が噴き出した。

 並みの戦士なら即死を免れない強烈な一撃だった。

 その一撃を受けても倒れなかったロドリゴも、一流の戦士だったといえる。

 だが、これほどのダメージを一撃で与えられたことは、今までの彼の経験にはないことだった。


「癒しを!」

 即座に女司祭は中位回復魔法を使った。

 しかし彼女は直ぐに悲鳴のような声を上げる。

「高司祭様、癒しの力がッ」

 それは回復が全く足りないという訴えだった。

 高司祭と呼ばれた男は、“神の拳”の魔法を放つのを止め、上位回復魔法をロドリゴにかける。

 これによって、ロドリゴの怪我はほとんど回復した。

 そう、ほとんどだった。僅かにダメージは残った。


 ロドリゴもエイクを攻撃するが避けられてしまう。

 威力重視の攻撃を放ってもなお、ロドリゴの攻撃を回避できるだけの技量が今のエイクにはあった。


 次なるエイクの攻撃は、これも凄まじい勢いでロドリゴの頚部に当たった。

 頚部は兜と襟部分の厚い板金に守られ切り裂かれる事はなかったが、もともとそれは切り裂くことを目的にしたものではない。衝撃により頚椎にダメージを与えるためのものだ。

 これも見事に思惑通りの結果を上げ、ロドリゴは大きく揺らめいた。

 2人の司祭は、またも共に回復魔法を使うしかなかった。それでもダメージは僅かながら蓄積した。


 最早エイクの与える大ダメージが、幸運によってもたらされたものではなく、確かな技術に裏打ちされた確実な結果であることは明らかだ。

 今のエイクは、共に相当の熟練者と思われる二人の司祭が回復魔法をかけるまでの間に、平均してその回復量以上のダメージをロドリゴに与えることが出来た。


 もともと、エイクの目標は父ガイゼイクだった。その剣技は何者をも粉砕する強力な攻撃を旨としていた。

 しかし、どれほど鍛えても父のような攻撃を放てないエイクは、弱い力でもダメージを与えられるように、より効果的な場所に確実に攻撃を当てる技術に磨きをかけた。

 そして、その驚異的な見切りの力で恐るべき精度で攻撃を当てる技術を身につけたのだった。


 そしてそのエイクの元に、ついに彼自身のオドが取り戻され、それに伴って強大な力が宿った。

 その結実が今現出している事態である。

 即ち非常に強力な攻撃が、極めて効果的な場所に的確に打ち込まれているのだ。


 こうなるとロドリゴたちはジリ貧だった。

 エイクの強烈な攻撃は、どれほど守りに徹しようとも的確にロドリゴを捉え、大ダメージを与える。二人の司祭がその回復に回ってしまい、ロドリゴの攻撃も当たらないのでは、エイクにダメージを与えることが出来ない。


 そして、マナはそう遠くないうちに尽きて、回復魔法は使えなくなる。

 以前までは直ぐに尽き果ててしまったエイクの体力も、今は無尽蔵であるかのようで全く衰えを知らない。

 どう考えても司祭たちのマナが尽きるほうが先だった。


「くそッ、もやし野郎がッ!!」

 ロドリゴがエイクを罵る。

 しかし、それはほとんど悲鳴だった。

 彼は余りにも予想外の展開に激しく動揺していた。


 ロドリゴの戦い方は、盾と鎧の防御力と自身の豊富な生命力を頼り、回避を重視しないものだった。

 そして、フォルカスから信頼を得て、その秘密を教えられ、ネメトの闇司祭と連携するようになると、ロドリゴは己の戦い方に更に強い自信を持つようになった。

 回復魔法と攻撃魔法を使う闇司祭と連携すれば、少なくとも武器での近接攻撃しかできない相手に負けることはない。そう思っていた。


 今回、フォルカスによく注意しろと言われていたロドリゴは、念のため配下の者達を先行して襲撃させ、エイクの力を見極めることにした。

 その結果、エイクの力は想像以上だった事が分かった。しかし、それでも尚、自分たちが負ける事はないと確信し、自信を持って自ら姿を現したのだった。


 しかし、エイクはその力を隠していた。

 実力の一端を発揮したエイクの前に、ロドリゴは経験したことのないダメージを立て続けに負わされ、かつてない危機に陥っていた。 

  

 ロドリゴは必死の思いで打開策を考える。

 昔から回避を重視していなかった自分が、今更エイクの攻撃を避けるのは不可能だ。

 そしてエイクの攻撃を受ければ、司祭2人は回復魔法に専念するしかなくなる。

(なら、俺がやるしかない!)

 彼はそう結論付けた。


 自分が攻撃を当てるしか勝つ方法はない。そう思い定めたロドリゴは、攻撃の精度と威力を向上させる錬生術を発動させると、回避を無視して力任せの全力攻撃を袈裟懸けに放った。

 どうせエイクの攻撃を避けることが出来ないならば、最初から当てられる前提で回避を無視し、威力に特化した最大限の攻撃を放つべきだ、との判断だった。

 その判断は本来間違いではない。

 しかし、エイクに相対する場合は正解でもなかった。


 エイクはロドリゴの様子を注意深く観察し、その表情や細かな準備動作から、彼の意図を予測していた。

 そして、予測通りに動いたロドリゴに対して、決定的な隙を見出した。


 エイクはロドリゴのその攻撃を、あえて紙一重の差で避けると、体勢を崩したロドリゴの右側に流れるように回りこんだ。その手のバスタードソードは、鋭い突きを繰り出すべく、既に構えられている。

 そして、渾身の力を込めた突きを放つ。

 その一撃は、ロドリゴの鎧の、脇部分の隙間にきれいに滑り込み、その体を深々と貫いた。


「がはァ」

 苦悶の叫びを上げ、再び激しく吐血するロドリゴ。

 それでもなお彼は倒れなかった。彼の生命力もまた優れた物だった。しかし、今までで最大のダメージを受けていた。

 二人の司祭の回復魔法をもってしても、残ったダメージは甚大だった。


 そして、続けざまに頭部を狙ったエイクの攻撃が炸裂する。これもロドリゴの脳を激しく揺らし大ダメージを与えた。

「癒しを!」

 女司祭が悲鳴のような声で回復魔法を使うが、その魔法は何の効果も表さなかった。

「え?」

 女司祭はそんな声を上げ愕然とした。

 熟練の剣士でも手を滑らせて攻撃を外すことがあるように、熟練の魔法使いも魔法の発動に失敗することがある。それがこのタイミングで起こったのだ。


 それを見た高司祭は、回復魔法を行使しようとするのをやめて、踵を返して逃走を図った。

「高司祭様!」

 女司祭は非難とも驚きとも取れる声で叫んだが、高司祭の判断は適切だった。


 もともと状況はジリ貧で、ロドリゴの決死の攻撃もはずれ、逆に大ダメージを負った。そして回復魔法発動の失敗。

 二人がかりで回復しても足りなかったのに。回復魔法が一回だけになれば、回復が追いつかなくなるのは確実。つまり敗北は確定的だった。

 しかし、惜しむらくは彼の判断は遅すぎた。

 攻撃に全力を掛けたロドリゴは、既に背後の二人を守ろうとはしていなかったのだ。


 エイクは後ろを向いた高司祭に容易く追いつき、その首に狙い済ました一撃を放った。

 その一撃はバスタードソードの最もスピードが乗った剣先で首を捉えてこれを切断、その頭部を弾き飛ばした。


 その間に女司祭は回復魔法を唱え直し、ロドリゴの生命力を最低限回復していた。

 そしてロドリゴは高司祭への攻撃の為にやや体勢を崩していたエイクの背中に、再び全力の一撃を放つ。その攻撃はついにエイクを捉えた。

 しかし、それは一般的に見れば強力な一撃だっただろうが、エイクの繰り出すものには比べるべくもなく、そして本来のオドを取り戻したエイクの生命力はロドリゴ以上だった。

 つまり、全く命に別状はなかったのだ。


 エイクは動揺する事もなく素早くロドリゴの方に向き直る。そして、その右肩に隙を見出すと、反撃の突きを放つ。

 その攻撃は、歪が生じていた板金を的確に捉えて弾き飛ばし、ロドリゴを深く刺し貫いた。

「く、そ……」

 ロドリゴは何か言おうとしたが、白目をむき、ついに倒れた。


「神よ、その御手で敵を撃ち果たし給え」

 最早癒しは無意味と悟った女司祭は、“神の拳”の魔法を放つ。

「ぐっ」

 エイクは思わず声をあげる。その魔法攻撃は、思いのほか大きなダメージをエイクに与えた。

 しかし、エイクはかまわず女司祭近づくと、右の拳をその鳩尾に打ち込む。

「あッ」

 そんな声を上げ、女司祭はあっけなく意識を失い倒れこんだ。


 そして次の瞬間、エイクは間髪をいれずに、愛用のスティレットを正面の扉の外に投擲した。

「ぐわぁ!」

 男の悲鳴が聞こえた。


 エイクは表に飛び出し、足に突き刺さったスティレットを引き抜こうとする男に、容赦なくバスタードソードの一撃を浴びせかける。

 その男がずっと向かいの建物の影からこちらを伺っていることを、オドの感知により気づいていたのだ。


 その男は最初から襲撃者たちと一緒にこの家に近づいて来ていた。

 そして、最初の6人の襲撃者たちは、周辺を探索している際に、何度かこの男の下に戻り、その後また探索するという動きをしていた。男が襲撃者の一味なのは明白だ。

 エイクがロドリゴらに「残りのお三方」と言ったのは、男に自分の存在はばれていないと思わせるための、誤誘導だったのである。

 エイクは他に隠れている者がいないことを確認すると、男の死体を引きずって家に戻った。

 家の中に戻ったエイクは、まず切り飛ばした高司祭の頭部を拾い、ついたままになっていた仮面をはずしてその顔を確認した。全く知らない顔だった。


 続いて女司祭に近づきその仮面をはずす。

「ほぅ」

 その顔を確認したエイクは、微かに感嘆の声を漏らした。

 同じく見知らぬ顔だが、幼さを残しながらも端正に整っており魅力的だった。

 髪は薄浅葱色で、年の頃は自分よりも年下だと思えた。

 ローブの上からうかがい知る事が出来るその体はやはり華奢だったが、それはそれでそそられるものがある。

(こいつを殺さなかったのは正解だったな)

 そう思ってエイクは仄暗い笑みを見せた。


 そしてロドリゴの方を見やった。オドが残っていることからまだ生きていることは分かっていた。

 最初の襲撃者たちも、6人中5人がまだ生きている。

 エイクは少しだけ考えたが、女以外をあえて生かしておく理由は思いつかなかった。


 彼はロドリゴに近づくと、バスタードソードを振るって首を薙ぎ、とどめを刺した。

 他の男たちも全て同じようにした。掃き掃除でもするような気軽な動きだった。

 そして最後にリーリアの元に向かった。




 リーリアは驚愕の連続で、感情が麻痺してしまったかのように呆然としていた。

 彼女は自分で一端の戦士のつもりだった。

 その自己評価は満更間違ってはいなかったのだが、最初に襲ってきた6人の男たちは、どれもその自分よりも強く、それなりの腕利きにみえた。

 その男たちを一蹴したエイクの剣技に驚愕していたのだが、それすら残る3人をおびき出すために実力を隠したものだったようだ。


 後から来た3人相手に本気で戦いだしたエイクの強さは全く別格だった。

 王国でも優秀と言われる騎士と強力な闇司祭2人の連携を、真正面から、ただその剣撃の強力さだけでねじ伏せてしまったのだ。

 そして最後には、まだ息のある者たちに無造作にとどめを刺した。その動きには何の躊躇いもみられない。

 彼の行動の全てが、リーリアにとって恐怖そのものだった。


 その恐るべき男が近づいてきた時、彼女は自分がどうすればよいのかまるで分からなかった。

 エイクはリーリアの近くまで来ると冷淡な声色で告げた。

「お前はもう俺のものだ、だから俺と一緒に来て俺に仕えろ」


 その言葉はリーリアに歓喜をもたらした。この人のものなら殺されないで済む! 少なくとも今は。

「はい、ありがとうございます」

 リーリアは心からそう答えた。

「とりあえず、ここを出るから身支度を整えろ」

 エイクはリーリアを縛る縄を軽く切り裂きながらそう言った。


 リーリアは昨晩剥ぎ取られ、今も部屋の隅に置かれている自分の服に目をやる。

 それは着られはするだろうが、昨晩の乱暴な行為により、どの程度着物としての用を成してくれるか、甚だ心もとない状態になっていた。


「服が足りなければ、そこらへんに倒れている奴のを使え」

 エイクはそう言ったが、そのほとんどはべっとりと血を吸っている。自然に唯一汚れが少ない女司祭のローブにリーリアの目がいく。

 その様子をみて、エイクがまた声をかけた。


「あの女のは駄目だぞ。あの女も連れて行く。これはお前の為でもあるんだ」

 リーリアが意味が分からずにいぶかしげにエイクを見ると、彼は笑顔を浮かべながら言った。

「二晩続けて俺の相手をするのはきついだろ?」

 リーリアは顔を引きつらせた。笑おうとしたが無理だった。

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