伝説のプレミアムスライム

 僕は一人だった。

 生まれてからずうっと一人だ。

 仲間はいない。親もいないし兄弟もいない。

 人間たちは、そんな孤独な僕の事を目の敵にして襲いかかってくる。

 美味しそうに見えるのかな?

 僕を食べても全然美味しくないと思うんだけど。

 フルーツの方が絶対に美味しいよ。

 でも平気だよ。

 僕は逃げ足が早いからね。捕まる事は絶対にないよ。

 断言できる。

 戦闘力は皆無だけど、逃げることだけには自信があるんだ。

 でもね、千年の時が過ぎた頃に、生きることを諦めたんだ。

 ずうっと一人だし、何だか疲れたからもういいやって。

 諦めた次の日、僕は違う世界に居た。

 泣き疲れて寝落ちして、目が覚めたらいつもの洞窟ではなく、とっても不思議な世界に居たんだよ。

 何が不思議なのかというと、身体が無かったんだ。

 精神体、いわゆる魂だった。

 その世界はそんな魂になった仲間がいっぱいいて、念じるだけで意思の疎通が可能なんだ。

 色々な奴が居るんだよ。

 やれ邪龍だとか、神獣や伝説の魔獣とか、時代に名を馳せた数多の絶対強者たち。

 あ、同族もいたんだ。地獄のスライム。

 山のように大きくて、大悪魔が主食だったんだってさ。

 悪魔だってさ、笑っちゃうよね。

 フルーツの方が絶対に美味しいと思うのにね。

 他にも、国を滅ぼしたとか、精霊王とか龍の王を倒したとかで自慢してたよ。

 皆んな、神様にも匹敵するような、そんな恐ろしい力を秘めていたみたいなんだ。

 凄く強い魔物ばかりだった。

 でも、僕は全然強くないんだけどな。

 逃げてばかりだったし、むしろ弱いと思う。

 逃げ足が早いところが評価されたのかな。

 まぁ千年も捕まらなかったくらいだからね。

 一緒にいる強者たちが相手でも、逃げるだけなら自信があるんだ。

 例え、それが、どんなに窮地だったとしても、十分の一秒も有れば逃れてみせる。

 まぁ、そんなこんなで、元は荒っぽい絶対強者たちも、体のない精神体だと何だか穏やかだし、喧嘩しなくて済むから平々凡々と仲良く過ごしていたんだ。

 そんなある日。

 突然、目の前で光が渦を巻いて顕現したんだ。

 眩い銀色に煌めく光の渦。

 それはまるで、僕を求めているような、そんな暖かな輝きだった。

 僕とおんなじ色だったしね。

 なんだか嬉しくなって、気づいたら飛び込んでいたよ。

 そして、その先の世界で、ちっさな人間と出会ったんだ。

 精神体ではなく、元のスライムの姿に戻っていて、その体は、そのちっさな人間の魔力で出来ていることがわかったから、この子が僕の事を呼んだのだと理解したよ。

 その子との意思の疎通も普通に出来たし、髪の色が僕と同じだったしね。

 ご主人様ということで納得したよ。

 ご主人様は僕に何が出来るって聞いてきたからこう答えたんだ。

 逃げ足なら誰にも負けないって。

 でも、僕は強い訳じゃないからガッカリさせちゃうかもと思ったんだ。

 なんだかバトル中みたいだし。

 僕がガッカリと肩を落としていたら、ご主人様はニッコリと笑って問題ないって言ってくれたんだ。

 嬉しくて、嬉しくて、心がポカポカと暖かくなったよ。

 そんな優しい君のために、僕は一生懸命頑張るよ。

 逃げ足なら任せてよね。

 君がどんなピンチに陥ったとしても大丈夫さ。

 例えそれが、絶対絶命で、君が諦めるようなモノだったとしても、この僕が必ず逃してあげるからね。



 ◇◇◇◇◇


 ローズが呼び寄せたこの銀色のスライムは、その昔、冒険者の間でプレミアムスライムと呼ばれていた伝説の魔獣である。

 突然変異によって生まれた、世界に一匹どころか、歴史上唯一存在していた超激レアモンスターだ。

 誰も近寄らない秘境に住んでいるという訳ではなく、街の近くとかの、ごく普通の森で慎ましく暮らしていた。

 滅多に遭遇する事は無いが、全然という訳ではなく、毎日森に入れば月に一度くらいはお目にかかれる程度だ。

 月に何人もの目撃情報もあった。

 しかし、誰も、どんな凄腕の冒険者でも捕える事が出来なかったのである。

 大金持ちが懸賞金をかけて、冒険者総出で捕らえようとした事もあった。

 五百人体制で一週間の森狩りもした。

 それでも、捕まえる事はとうとう叶わなかった。

 そんな逃げ足を持つ伝説のスライムである。

 

 このプレミアムなスライムとの邂逅は、全知全能の神ゼウスの極致大魔法、【神の奇跡】の最大の成果となる、のかも知れない。



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