第9話:一緒に寝よ?
パーティーの後片付けをして部屋に戻る。一つしかないベッドを見ると、途端に緊張してきた。
「……よ、予備の敷布団あるから、私はそっちで寝るね。聖、ベッド使って良いよ」
「えー。寂しい。一緒に寝ようよ」
「いや……そのベッド、百キロまでだし……」
「えっ。女子二人でそこまでいかなくない?」
彼女はそういうが、私が二人でも規定のギリギリだ。彼女は背が高い。170あるといっていた。対する私は、150㎝。体重は五十いかないくらい。細身とはいえ、二十㎝も差があるのだ。私より軽いわけがないし、私と同じだとしても軽すぎる。
「あーでもそうか、あたしが六十ちょいだから……すうが四十超えたらそれでもうアウトか」
そう言って彼女はチラッと私を見る。
「……ちょっと持ち上げて見ていい?」
「な、なんでよ! 持ち上げなくても見れば分かるでしょ! 四十なんて余裕で超えてるよ!」
「いや、お姫様抱っこしてみたいなって。されたくない?」
「されたくないからこっち来ないで!」
じりじりと近づいてくる彼女から逃げると、彼女は「女の子の夢じゃんかー」と不満そうに唇を尖らせた。
「私はされたくない」
「ああそう? あたしはされたいけどなぁ」
「ごめん。体格的に無理」
「だよねー。だからする方に回ろうかなって」
「し、しなくていい……」
「分かった。予備の敷布団ってどこにあるん?」
「取ってくるから待ってて」
「ん。分かった」
部屋を出て、敷布団を取りに和室の襖を開けようとすると、父の声が聞こえてきた。母に私達のことを報告しているようだ。声が止むのを待って襖を開ける。
「雛。どうした?」
「敷布団取りに来た」
「持っていける? 手伝おうか」
「良い。一人で……うっ」
押し入れを開けて敷布団を取り出す。意外と重かった。結局父に手伝ってもらい、部屋に運び入れる。
「ありがとうございます」
「いえいえ。十一時くらいまでは起きてるから、なんか困ったことがあったら言って。和室に居るから」
「はーい」
「ありがとう。お父さん」
父にお礼を言って振り返ると、既に彼女が布団に入っていた。ニヤニヤしながら「おいで」と掛け布団を持ち上げる彼女をスルーして、ベッドに入る。
「ちぇ。来ないかぁ」
「……電気、消すね」
「はーい」
カーテンを締めてベッドに入り、電気を消す。彼女の枕元は光っていたが、しばらくすると消えて真っ暗になる。布団のシーツが擦れる音がやけに響く気がする。落ち着かなくて、彼女に背を向ける。
「……すう、もう寝た?」
彼女の問いかけに返事をせずにいると、彼女は独り言のように語り始めた。
「今日、ありがとね。誘ってくれて。あたしさ……みんなが彼氏とクリスマスを過ごす中、あたしだけ一人なのが悔しくてさ。別に彼氏じゃなくて友達でも良いんじゃないって発想はなくて。クリスマスは特別な人と過ごさなきゃいけないって、思い込みすぎてたみたい。まあ結局、すうは特別な人になったわけだけど」
「……」
「……不思議だよね。恋って。万鈴花に言われるまで全然気づかなかったのにさ、好きなんでしょの一言で一気に意識しちゃって。単純なんだろうね。あたし。でも……今、凄く幸せ。……大好きな人が添い寝してくれたら、もっと幸せになれるんだけどなぁー」
冗談っぽく彼女は言う。無視して寝たふりを続けていると「やっぱ駄目かぁ」と諦めたようにため息を吐いた。ごそごそと物音が聞こえてくる。少し待ってから、寝返りを打って彼女の方を向くと、彼女は向こうを向いていた。もう寝ただろうか。しばらく観察して、寝息を立てていることを確認してからベッドを出て彼女の布団に忍び込もうとすると、彼女が振り返った。
「ひゃっ!」
そしてそのまま布団に引き込まれ、抱きしめられる。
「んふふ。絶対きてくれると思った」
「は、離してぇ……」
「やだよー。もう捕まえちゃったもんねー」
彼女を押し返すが、逆に引き寄せられてキツく抱きしめられる。抜け出すのを諦めて、彼女の背中に腕を回す。
彼女の手が頭を撫でる。愛おしいという気持ちが伝わってくるような、そんな優しい撫で方。お母さんに抱きしめられた幼い頃の記憶が蘇り、涙が込み上げる。
「すう……?」
私が泣いてることに気づいたのか、彼女の腕に込められた力が緩む。泣いている顔を見られたくなくて、彼女の胸に顔を埋める。
「……お母さんのこと、思い出しちゃって」
「……そっか」
「好きなだけ泣きな」と、彼女は私の頭を優しく抱く。とんとんと背中を叩く音と、彼女の少し早い心臓の鼓動が子守唄となって私を夢の中へと導いた。
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