第二十一話 華秦国の皇帝 其の一
時刻は深夜――。
すでに寝静まっている者たちが大半の
鋭い踏み込みから連続した
直後、私は
すかさず右足と左足による、二連蹴りを
二連蹴りから重力を感じさせない動きで着地した私は、ここからが本番とばかりに間を置かず様々な攻撃を放っていく。
突きや蹴りはもちろんのこと、
しかし、私は
1つ1つの攻撃に〈
それはなぜか?
今の私は1人だけの敵、それも人間だけを
複数の敵は当然のことながら、人間以外の
そして、この動きの大半は
見る人間が見れば分かるだろう。
今の私の動きが超人の域に達した熟練者の指導を受けていながらも、全体の動きからは独自の工夫や経験を反映させていることに。
どれほどの時間が経っただろうか。
私は一通りの鍛錬を終えると、そのまま肩幅ほどの広さで平行に立ち、ゆっくりと呼吸を整える。
と、ほぼ同時に後方から声を掛けられた。
「こんな夜更けまで鍛錬とは熱心ですな、
振り返ると、そこには
彫りの深い顔つきに、鋭い眼光と背筋の良さが相変わらず印象的である。
そして今の私は武の鍛錬のため薄衣1枚だったが、
相変わらず気配を消すのが上手い
「
私はその言葉にハッとした。
「〈
「そんなものを使わなくとも分かりまする。
「ふん、悪かったな。思っていることが顔に出やすくて」
「自覚されておられるなら、今のうちに直されるのが賢明です。お若いうちはよろしいですが、年を重ねていくと
そう言われると少しばかり耳が痛い。
確かに私は数か月前に、この国の皇帝に即位したばかりの18の若造だ。
一方の
それだけではない。
正直なところ、頭が上がらない部分はあるにはある。
ただし、こんな時刻のこんな場所で小言を言われるのは少々歯がゆい。
ここは皇帝としての
それゆえに私はギロリと
「そなた……そんなことを言うためにわざわざここに来たのか? ここは本来ならば男子禁制の
現在、私と
王都であるここ
基本的に男子禁制であり、そんな
そして事情を知らぬ者からすると、ここは女の楽園と噂されているらしい。
だが、私からすれば
少なくとも
たった1人しかいない皇帝である私の子を望む
そうなると、必然的に女の
自分以外の女をすべて
無理もない、と私は思う。
そして即位する前は他人事だったので分からなかったが、こうして当の本人になるとよく分かる。
どうも私は性欲よりも武欲のほうが高い。
私の子を望む女たちと
などと考えていると、
「
「ふざけるな、そんなものはない……というか、やはり〈
「やはり武の鍛錬は息抜き程度にされて、
「何が
意味は「私ごときが皇帝陛下に
まあ、それは別に良いとして。
「こうも世に妖魔が
「それは
「その
私は良い機会とばかりに、以前から考えていたことを
「この
しばしの沈黙のあと、
「主上のお考えはよく分かっております。近年は特に妖魔の動きが非常に活発になっており、それに加えて地方では不可思議な事件が
さすがは
私の考えをよく理解している。
「率直に申し上げますと、それには反対せざるを得ません。
「だが、地方の役人たちでは手に負えない妖魔に関する事件が多発しておる。それは最近の
要するに地方で何が起こっているかを観察し、それを調べ上げて中央に報告する者たちである。
そして近年ではこの
国というのは人間の身体と同じだ。
人間で言うところの足元――地方が腐敗や衰退をしていけば必ず国は亡ぶ。
それは
しかも、それが役人の汚職ではなく妖魔に関係している可能性が高いというのならば、妖魔専門の部署である
そんな私の心中を的確に読み取ったのか、
「わしも地方の不可思議な事件については存じております。ですが独自に調べたところによると、どうも一筋縄ではいかない難事件や怪事件が多い。おそらく、それらを解決するには
これはどちらかと言えば、
しかし、その2つよりもはるかに難易度の高い仕事が求められる。
そして、そのような特殊な仕事をする人間は身元が不十分であるほどいい。
身元が確かな人間より何倍も自由に動けるからだ。
けれども、そうなると人選は極めて難しくなる。
本当は出来ることなら私自身が地方に行きたかったが、それは側近の者たちや目の前にいる
「当たり前です」
「そのようなお考えを持たれるぐらいならば、まだこうして密かに武の鍛錬をしていただいたほうがマシですわい」
「ならば、もう私に対して余計なことを言うのはやめにいたせ」
今の私は武術――とりわけ〈
なぜなら〈
そう思ったとき、
「
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