第十六話 新たなる旅路
「今日は本当に良い天気ですね。まるで心が洗われるようです」
アリシアさんは、頭上に広がる
「確かに……でも、こんな天気は今までもあったでしょう?」
隣に座っていた俺がそう言うと、アリシアさんは首を左右に振った。
「これまではそう感じなかったんです。ですが、元の身体に戻った今は違います。これまでと同じ景色だったものが、まったく違うような景色に見えるんです」
俺は人間ってそういうものだな、と思った。
肉体の調子というものは、心の調子に
どうやら今のアリシアさんは、身体だけではなく心も以前と同じ
俺もアリシアさんと同じく空を見上げた。
頭上に広がる空はどこまでも青く
今日はそこまで強い風は吹いていない。
蒼天に浮かぶ無数の
おそらく今は
この調子だと、次の街に
現在、俺とアリシアさんは馬車の荷台の
高額な
「私の国元でもそうでしたが、この
アリシアさんは
もちろんアリシアさんと旅に出るにあたって、
屋敷に
今もそうだ。
普通ならばどこの馬の骨かも分からない男女を、自分の馬車に乗せる行商人などいない。
しかし、
「龍信さん、本当に良かったのですか?」
ほどしばらくすると、アリシアさんが
「何がですか?」
「何がって……私の旅にあなたが同行することですよ」
ああ、そのことか。
俺は逆に「駄目でしたか?」と
「駄目ではありませんが、相手は私たちの大陸を支配していた魔王なんです。いくら
そんなに魔王と呼ばれる妖魔は強いのか?
俺は両腕を組みながら「ふむ」と
現在、俺とアリシアさんは
では、どうして俺とアリシアさんは王都へと向かっているのか?
それはアリシアさんが
アリシアさんがこの
詳しく話を聞いたところによると、アリシアさんの祖国ではもう魔王は完全に滅んだということになっており、魔王が実は
どうやら自分たちの領土以外はどうなってもいいと考えているらしく、アリシアさんの以前の仲間たちも王族に従って見て見ぬ振りをしたらしい。
だが、勇者と呼ばれていたアリシアさんは違った。
勇者とは人々の平和を守る使命を持った人間を指し、アリシアさんは魔王が異国である
たとえ魔王に、余命1年となるほどの呪いを掛けられてもである。
そしてそれを聞いたとき、俺はあまりの感動に震えが止まらなかった。
アリシアさんも他国のことなど関係ないと目を閉じてしまえば、表向き魔王を倒した英雄として相当な地位と名誉を手に入れられたはずだ。
もしかするとその得ていたはずの地位と権力を
しかし、アリシアさんは目を閉じるどころか大きく見開いた。
アリシアさんは地位も名誉も自分の命すらも半ば捨て去り、しかも王族から勇者の称号を
正直なところ、この話を聞いた俺は恥ずかしくなった。
主人であった
だからこそ、俺はアリシアさんの魔王を倒す旅に同行しようと決めた。
当然ながら同行するだけではない。
魔王と呼ばれる妖魔がどれほど強いのか分からないが、自分もアリシアさんの身体を治した手前、アリシアさんを守るために命を
などと思ったときである。
リイイイイイイイイイイン。
どこからか
俺は慌てて音のしたほうへ顔を向ける。
音を発していたのは〈
俺は
〈
どうして、と俺は〈
直後、〈
同時に頭が割れんばかりの頭痛が襲ってきた。
俺は思わず両手で頭を抱える。
「
俺が急に頭を押さえたことを心配したのだろう。
アリシアさんが俺の身体に触れてくる。
「だ、大丈夫です……」
やがて頭痛が治まったあと、俺はアリシアさんに何とか笑みを向けた。
そして――。
「それよりも思い出しました」
俺はぽつりと
「何をですか?」
「記憶です」
俺は
「アリシアさんには断片的にしか伝えていませんでしたね……俺は今までずっと自分の名前と、身体にしみ込んでいた武術の技以外の記憶がありませんでした」
けれど、と俺は言葉を続ける。
「今、ふと思い出したんです。全部ではありませんが、記憶を無くす以前の俺が何者だったのかは思い出しました」
アリシアさんは小首を
「記憶があろうと無かろうと、あなたは
「違います」
と、俺はきっぱりと否定した。
「俺は人間界の平和を守るため、
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