第十一話 元凶
アリシアさんは上半身の衣服をすべて脱ぐと、自分自身を抱き締めるような形を取った。
女性として胸元を隠すのは当然だったが、俺が
そのため、俺はアリシアさんに「背中を向けてください」とお願いする。
ただ、そのときにふと目につくものがあった。
「アリシアさん、それは?」
アリシアさんの首には、赤い石の
「こ、これは……その……ただの
歯切れ悪く答えたアリシアさんは、
背中を向けて欲しいのでよかったものの、俺にはその
とはいえ、今は
俺がアリシアさんに背中を向けるように頼んだのには理由がある。
なぜなら、俺がこれから行う
背中には人体に多大な影響を及ぼす神経が多く通っており、同時に精気を全身へ行き届かせる働きを持つ
そして、人体に不調が出てくる原因は背中にあることが多い。
たとえ呪いのようなもので、肉体を壊されたとしてもそうだ。
見た目に異変が表れていないのならば、高確率で背中――特に背骨を中心とした
俺は
開いた口が
俺は
アリシアさんの薄桃色の肌には、大小無数の傷がたくさんついていたのだ。
修行の最中に
それだけではない。
それこそ人間につけられた刀傷よりも、妖魔の牙や爪でつけられた傷のほうが多く確認できたほどだ。
「……
アリシアさんは俺に背を向けたまま言った。
「さっきはあなたに欲情がどうのと言いましたが、このような
俺は落ち着きを取り戻して「そんなことはありません」と答えた。
「
嘘ではない。
俺は心の底から本当にそう思った。
「綺麗? こんな傷だらけなのに?」
アリシアさんは顔だけを振り向かせる。
俺はこくりと
「こんな素晴らしい傷を見て
アリシアさんは顔を真っ赤にさせると、
そんなアリシアさんに対して、俺は可愛い面もあるんだなとクスリと笑う。
しかし、再びアリシアさんの傷を見てこうも思った。
一体、アリシアさんは何者なのだろう?
この傷を見る限り、ただの武人でないことは容易に想像できる。
などと考えたとき、アリシアさんはブルッと身体を震わせた。
俺はハッと気づく。
「すいません。いつまでも夜風に触れさせておくわけにはいきませんよね」
背中の傷に目を
このままでは風邪を引かせてしまうかもしれない。
「それでは今から始めますね」
俺はアリシアさんの背中にそっと両手を当てた。
同時に
ビクンッ!
アリシアさんの身体が大きく動き、続いて小刻みに身体を震わせる。
「安心してください。これは外部から精気を注入されたことによる反応の一種です。身体に危険はないので、落ち着いて深呼吸を繰り返してください」
アリシアさんは言われた通り深呼吸を始めた。
一方、俺はアリシアさんの体内の様子を送り込んだ精気で
これは……。
俺は驚きを通り越して
簡単に言ってしまえば、アリシアさんの体内は
骨や内臓の位置がどうのこうのと言うわけではない。
しかもその
さらにもっとよく体内の様子を
このまま放置しておけば、アリシアさんは1年以内に確実に死ぬだろう。
そして、この身体異常は病気や怪我によるものではなかった。
これは間違いなく呪いにやられたものだ。
だが、こんな芸当ができる人間が異国にいるのだろうか?
俺は
それほど、アリシアさんの体内を
いや、待て……。
次の瞬間、俺はカッと両目を見開いた。
アリシアさんの体内の奥に
そう判断した直後、アリシアさんに異変が生じた。
「ああああああああああああああああ――――ッ!」
身体をガクガクと大きく震わせ、まるで
直後、アリシアさんの体内から上空に向かって
それは黒い
しかもその黒い
黒い霧はあっという間に3.3
こいつがアリシアさんを
俺は巨大な
巨大な
その声量と不気味さは
無理もない。
あの巨大な
それこそ、ここに普通の人間がいたら
だが、
妖魔を狩るのは、
ましてや、恩人のアリシアさんに
絶対にここから逃がすわけにはいかない。
などと思考を働かせたときだ。
俺はすかさず腰を落として抜き打ちの構えを取ると、
すると
その光球からは火の粉を思わせる黄金色の
〈
この〈
ただし、この黄金色の光は普通の人間には見えない。
別の〈
そんな〈
耳をつんざく鳴き声を発しながら、空中から間合いを詰めてくる。
俺は正確に巨大な
そして――。
「
俺は鋭い気合とともに
「キィィィィィィィィィィィィィィ――――ッ!」
巨大な
ふわりと地面に降り立った俺は〈
武術において、敵を完全に無力化できたと判断するまで気を抜かないのは基本中の基本である。
やがて落ち着いた雰囲気が周囲に広がる。
ひとまず危機は去った。
俺はようやく
「アリシアさん、あなたは何者ですか? 単なる剣士ではないですよね?」
「――――ッ」
言葉が出なかったアリシアさんに俺はさらに
「あれだけの呪いを掛けられていたら、常人よりも鍛えていた武人でも心身を破壊されてもおかしくはありません。それこそ、アリシアさんのように日常生活など1日たりとも送れない。でも、アリシアさんは日常生活が送れていた。これはアリシアさんが特別な人間だったことを示している」
違いますか、と俺はアリシアさんの目を見つめた。
「……どうやら、あなたに対する隠し事はここまでのようですね」
「私は異国で魔王を倒した
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