第2話 眷族と拠点。
ユキと部屋に戻ってきた。確実に自分の部屋だ。「ここが樹様の住んでいる所なのですね」ユキが部屋を見渡して呟くが正直言って恥ずかしい。ユキを造る時に、どうせなら美人か可愛い女の人にしようとしたのは確かだが、いざ見ると何だか照れくさい。こんな綺麗な人が自分に居るのがなんだか違和感がある。
「そうだよ。両親と一緒に住んでたけど今はもう居ないからね。」
「そうんですね。」
「うん。話し合うには狭いから居間に行こっか。」
「はい」
元々両親と一緒に住んで居たが、両親を亡くしてからは自分独りで、住んでいる。片田舎の一軒家なので都会なんかよりは良いが、それでも一軒家なので維持をするにも大変なので本業の他にバイトもしてせこせこ稼いでいた。それならば引っ越して安いアパートにすれば良いのだが、生まれてこの方両親と住んで居た家なので未練がましく住んでいたのだ。
居間についてテーブルを挟んでユキと座りこれからの事について話し始めた。頭でダンジョンの造り方やらは分かっているがしっかり話しあったほうが良いと思ったからだ。
「んー、いきなりだけどユキは生まれたばっかなわけだけどダンジョンについてはどれくらい知っているの?」
「私が樹様に生み出されたときにはダンジョンの造り方などの事は頭に入っていますよ。」
「そうなんだ?」
「はい。恐らく管理者が不便ないようにしてくれたのかと思います」
「そうなんだ!それは助かるよ。管理者に感謝だね。」
良かった。最初から説明するとなると説明するのが下手な僕じゃあ苦労するところだった。ダンジョンの説明をしなくて良いのは楽で良い。となると、正直ダンジョンより気になるのは……。
「ユキはさ、ユキ自身の事はどれくらいわかる?」
「私自身、ですか?」
「そう。ユキを生み出す前に、ダンジョンの造り方と同じように僕をサポートする者を造るようにってことでユキは生まれたんだけど、何となくこんな人が良いなーで想像したからさ。」
「何となく、ですか……。」
「あ!いや、ええっと適当にやったわけじゃないよ?!」
「本当ですか?」
「本当だよ!何となくって言っても考え無しにやったわけじゃないよ!」
「そうですか。それならば良かったです。」
そう言ってユキは微笑んだ。正直ドキッとしたけどそれはバレないようにしなくちゃ。勿論言った通り適当ではないけど言い方が悪かったな。
「そ、それでさ確認になるけどユキは翼もあるし当然人ではないだろう?」
「そうです。種族としては天使と言うものです」
「天使」
「天使です。あ、樹様のダンジョンアプリで私の情報見れますよ?」
「え?」
「恐らく管理者が樹様に与えた知識はダンジョンの造り方や運営の仕方そのもので、私のように生まれてくる者乃細かい事はダンジョンアプリを使わないと分からないようになっていると思いますよ」
ユキに言われて樹はアプリを起動した。少ししてアプリでユキの情報を開いた。そこにはこう表示されている。
【名前】ユキ
【種族】天使
【個体特性】真実の眼
【スキル】治癒魔法·結界魔法·雷魔法
となっている。もってるスキルが攻撃よりも護ることに特化しているのは、僕が造る時に攻撃に強いものよりも守りに強い者を想像したからだろう。しかしこの【個体特性】とはなんだろうか。
「この【個体特性】って?」
「私のようにダンジョンの主をサポートするために一番最初に造られた個体【眷族】にのみ付く能力です。」
「ってことは、他の個体にはつかない?」
「はい付きません。『真実の眼』を持っていますが、他のダンジョンの主が造る個体には別の能力が付きます。」
「一番最初に造られた【眷族】個体にのみ付くっていうと、何か特別なものなの?」
「そうです。私の『真実の眼の』場合ですと直接話しをしている相手や、相手が何かしらのスキルで惑わしたり、隠れたりしている時に見破ることができます。」
「なるほど。そうなると他の個体にはそういう見破るみたいな能力は出来ないんだ?」
「いえ、出来ないわけではありません。簡単に言うと【個体特性】の場合、どんな【スキル】を使って鍛えるよりも強力なものになります。」
「どんな【スキル】よりも。ということは嘘を見破ったり何かしらで誤魔化したりしようとしても、ユキには効かないとか?それ便利な能力だね」
「そうなります。」
僕はユキを生み出す時に僕や周りを守る事を中心に、手助けしてもらいたいと願っていたからこそついた個体特性なんだろう。正直相手の嘘を見破れるだとかこれから先の事を考えると凄く助かる。
「これからの事を考えると楽になりそうで良かったよ。」
「ふふ、それは良かったです。あ、勿論樹様には普段使いませんよ?一緒にいるのに見透かされたままと言うのは嫌でしょうから。」
「おぉON/OFFできるんだ。それは良かったよ。ずっと見透かされてたら恥ずかしいからね」
内心焦ったから助かった。正直ユキみたいな美人と喋ってて「かわいいなー」とか思ってたり僕だって男だからちょっと何かエッチなもの見た時にムラムラなんてしてるのがバレたら死んでしまう所だった。
「所でさっき【スキル】を鍛えると言ったけど、鍛えれば鍛えるほど【スキル】は強くなる?」
「そうなります。こちらの世界で言う所の漫画やアニメやゲームに出てくる様な特殊能力を思い浮かべれば良いと思います。」
「あー、最初は弱いけど、物語が進むに従ってバカみたいに強くなる?」
「その通りです。【眷族】となると最初から物語終盤に使えるような強力無比な技が最初から使え、かつレベルで言うと私自身もスキルもレベルも上限でと言った感じになります。」
「強すぎじゃない?」
「はい。私がちょっと結界魔法の力を使えば核兵器も効きませんし、治癒魔法によって死者を蘇らせることもできますよ。」
「そこまで!?核兵器から守って、死者を蘇らせれるってやばくない?!」
ユキは苦笑して「やばいと思います」と答えた。死者を蘇らせれるって言ってる事は分かるけど、それがバレたら大変な事になりそうだ。
「死者を蘇らせれるのは出来るだけバレないようにしようね……。」
「そうですね。それが良いと思います。ですがいずれバレると思いますよ?」
「なぜ?!」
「私の治癒魔法は【個体特性】でもないただの【スキル】ですから。他に治癒魔法が使える個体などや人がいればいずれ死者を蘇らせる者が現れると思います。」
「そうだった。【個体特性】はあくまで真実の眼で治癒魔法は【スキル】だもんね。」
「はい。とは言っても死者を蘇らせるなんてことは治癒魔法の中でも最上位の事になるのでそうやすやすとは現れないと思います。」
「【眷族】は?」
「【眷族】でしたらありえます。」
「なるほど。【眷族】は強いね。」
「そうですね。【眷族】は非常に強いですから。仮に【眷族】の私がやられる事があるとするなら、相手は地球の管理者以外はありえませんから。」
「他のダンジョンの主の【眷族】はか。でもダンジョンの主とは戦えないから大丈夫なのかな?」
「大丈夫です。それに生まれたときから本能的に他のダンジョンの主の【眷族】は勿論、他のダンジョンの主が造る魔物とも戦えません。」
「そぅか。そうだよね。」
樹はホッとすると同時に少し恥ずかしくなった。管理者は軽く「喧嘩しちゃダメだよ」くらいに言っていたが、しっかりルールとしては他のダンジョンの主との戦いが禁止となっていることに気がついたのだ。そのダンジョンの主との戦いが禁止なのに、ダンジョンの主の造る魔物と戦うなんて当然出来るわけがない。
ユキが苦笑しながら言う通り、まだ管理者と会いこの力を貰ったのはついさっきだ。僕はきっと思った以上にてんぱっていたのかもしれない。
「それと分かっていると思いますが樹様が直接生み出す魔物は【眷族】となりますが、【個体特性】が付くのは私だけとなります。」
「うん。最初に生み出したサポートする、今回だったらユキの事だよね。」
「はい。他にもこれから先【眷族】を生み出す事は出来ますが、それらに【個体特性】は付きません。あくまでも他の同種の魔物より数段階身体能力と【スキル】が強いと言ったものになります。」
「それだけでも違うね。強ければ強い程助かるし安心出来るよ。」
「そうですね。樹様の安全が最優先ですから。私は良い能力を持ってこれたと思います。」
ごもっともである。
「ふう。これから大変そうだね。」
「今まではあり得ないことをこれから樹様は行いますから。もし疲れたりしたときには仰ってくだされば力になりますよ。」
「それはありがたいね。」
「あ、ですが睡眠はしっかり取ってくださいね?いくら治癒魔法があるとは言え、精神的に良くないですから」
「それは残念だね。治癒魔法で夜更かしして人の倍動いてダンジョンを大きくしようと思ったのにな。」
僕がふざけてそんなことを言ったらユキが「もし樹様に何かあったら困りますから」なんて言われた。両親を亡くしてからこんな風に心配されたことは滅多になかったからちょっと何だかびっくりしてしまう。
「ごめんごめん。そんな困らせるつもりじゃなかったんだ。冗談だよ冗談。」
「それならば良いのですが。」
「しかしまあ、そろそろ適当にダンジョンの主としての仕事を始めるか。」
「いよいよダンジョンを造るのですね。」
「うん。とにかく造ってみないことには始まらないからね。」
「どのようなだを造るかは決めてあるのですか?」
「うん。決めてる。塔や洞窟のようなタイプしかないかなと最初思ったんだけど、いっその事ゲームであるようなオープンワールドみたいなものにしようと思っているんだよね。」
「オープンワールドですか。それはまた大変そうですね。」
「そう思うよ。」
何故オープンワールドにしようと思ったのか、それはオープンワールドならその世界の中に塔や洞窟造れるんだからそれのが良いんじゃ?と考えたことがきっかけである。そしてそれならば造りあげる世界に国やら街のような物を造れるんじゃね?とこれまた軽く考えたのだ。それに擬似的とは言え新しい世界を自分で造り出す事ができるのならやってみたい。
ただオープンワールドのような新しい世界だと何より基本的にファッションセンスも部屋のレイアウトを考えるセンスも芸術的センス皆無の人間である樹はダンジョンという物で新たな世界を造りあげその中で国や街を造るとなるとそれぞれの文化はどうするのか。
「さて、まあとりあえずやってみるか。」
「分かりました。」
「まずは、あぁそうか。」
「どうかされましたか?」
「いやね、いきなりダンジョンを造ろうと思ったわけだけど良く良く考えたら僕の拠点を先ずは造りあげないといけないかと思って。」
「拠点ですか?こちらのご自宅で良いのでは?」
確かにこの家もそうなのだが、これこらこの世界にダンジョンを造り、世界中の人達がダンジョンに入れるようになったらそうもいかない。いずれ僕と言う存在がバレるだろうし、何なら必要とあらば必要な相手には正体をバラしても別に構わない。どうせ独り身だしね。ただ、もし万が一ここに何かあれば行き場が無くなってしまうのでいっそダンジョンの中に拠点を造りあげることにしたのだ。それをユキに説明すると「それもそうですね。そう言うこともこれからあるかと思います。失念していました。」と申し訳なさそうに言ってきた。
「大丈夫だよ気にしてないからさ。じゃあ始めよう。あ、そうだ」
「はい?」
「どうせだからスマホからじゃなくてパソコン使って、タッチパネルとかでダンジョン造れるようにしちゃおうか。」
そう言うとユキが微笑みのながら「それは良いですね。大きい画面で見れるようになれば造るのもそうですが管理も楽になりますね。」と言った。やばい可愛い。
「どうかしましたか?」
「いやいや何でもないよ!じゃ早速元から使ってたパソコンはあるから、後モニターを買ってきて……ついでに追加のパソコンも買ってやりやすくしよう。」
「はあ……わかりました。無理なしないでくださいね。」
「勿論だよ。はは。それじゃあ行ってくるからユキは少し待っててね。あ、でもユキならその翼隠して一緒に来れるか。」
「はい。出来ますがただ……。」
「ただ?」
「恐らく日本人からすると翼を隠しても私は目立つ容姿をしていますので変な相手に絡まれたりしないよう今回は待っていようかと思います。」
言われて見ればユキは顔も整っているし眼は透き通るような青で髪はプラチナだ。目立つ。絶対変なヤロウが寄ってくるし注目も浴びる。
「わかった。それじゃあ行ってくる。悪いけど待っていてね。」
「分かりました。気を付けて行って来てください。」
「うん大丈夫。じゃあ行って来ます。」
「行ってらっしゃいませ。」
こうして僕は久しぶりに「行ってらっしゃい」と言われて何だか温かい気持ちになりながらも安価で買った移動手段である軽バンに乗りパソコンショップで新たなパソコン本体と、モニターを追加で3つほど買った。そしてふと思いたちタブレットも2つ買ってみた。これだけあればダンジョンの管理と作成が楽になるだろう。スマホの大きさと操作性を考えたら当然だ。
パソコンとモニターとタブレットを買って僕は家に帰った。これからこの世界には無いダンジョンなんてものを自分の手で造ってとか考えるととてもワクワクして何だか気持ちが逸っているのがわかる。昔欲しかったオモチャやゲームを両親にねだって買って貰った帰りにはしゃぎすぎて怒られたのを思いだしていたら家に着いた。
「ただいま」
「おかいりなさせませ。」
「じゃあ早速準備するよ。少し待っててね。」
「あの、それのことなんですが」
「うん?」
「ダンジョンに造る樹様の拠点が出来てから、そこにパソコンとモニターを置いたほうが良いのではないでしょうか?」
「……そうだった。そっちのほうがいいね!ユキありがとうね。」
「いえ大した事ではございません。」
いけない僕はまだ気持ちが逸っていたようだ。落ち着かなくては。仮にこの家でパソコン設置した後に拠点に移そうなんてしてたら二度手間になるところだった。案外こういうのは、面倒くさいから最初から拠点でやったほうが良いに決まっている。
「それじゃあ今度こそいざダンジョン造るよ」
「はい!楽しみです。」
こうして僕はダンジョンを造り拠点を造りあげた。まだ拠点以外はざっくり世界に大陸や海や山と言った地形を造っただけだが案外時間がかかった。初めてのことで造り方がわかるのは良いが慣れるまではこんなところか。
拠点以外特に何も無いダンジョンの中の新しい世界を見ると、これからやろうとしている事があれこれ浮かんできて楽しみで仕方がない。いきなり管理者にダンジョンを造ってだなんて軽く言われた時には訳がわからなかったが選ばれて良かった。こんな事を自分が出来ず他の人がダンジョンの主となっているのを指を咥えて見ていたら恐らくただ嫉妬していただろう。これはただ管理者に与えられた力ではあるけど精一杯楽しむことにしよう。
「さてそれじゃ、いよいよ出来た拠点を実際に見て周ろかな」
「ふふ、わかりました。」
「ん?ユキにこにこして、どうかしたの?」
「いえ樹様が楽しそうにしていたのでこちらも嬉しくなってしまいました。」
「……はは、そうだね。いや恥ずかしいよ。子供みたいになってしまった。でもほら、こんな物が造れたからさやっぱ嬉しくて。」
「そうですよね。すみません笑ってしまい。お気を悪くしてしまったのなら申し訳ございません。」
「いやいや!ユキが謝ることないよ!別に機嫌悪くなったわけじゃないからさ!ほら、拠点見て周ろうよ。」
そう言うとユキに微笑みながら「わかりました。私も一緒に行きます。」と言われ、2人で拠点を見ることにした。
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