第5話
通報を受けた若い警察官は電話を終え、受話器を置いて背後のデスクにいた年配の男に報告した。
「バーリー·アベニューに住む男性から強盗を撃ち殺したという通報がありました。現場へ急行しましょう」
デスクで事務処理をしていた手を止め、年配の男は顔だけ振り返った。
「なんて奴だ?」
「ウィリアム·ナッターズです」
「あー、あの男ね。また通報してきたか」
「また?」
怪訝そうな若い警官を見て、年配の警官は椅子を回転させ身体ごと振り返った。
「お前もテレビで見ただろう?少し前宝くじで大金当てた男さ。そのくせこんな田舎の小さい家に住んでて、しょっちゅう強盗が入ったって通報してくるんだよ」
若い警官は少し驚いた顔をしてこう言った。
「こんなのどかな場所でも、ですか。金持ちは大変ですね」
年配の警官は否定的に顔の前で手を振った。
「いや、実際強盗なんて来てないんだよ。行ってみると何にもいないか、虫とか小動物が死んでるだけなんだ。急に金持ちになったせいで頭がおかしくなっちまったのかも知らねえな」
「そうですか…」
年配の警官は大儀そうに欠伸をしながら伸びをした。
「それでも通報は通報だ。一応様子は見てくるか。急ぐことはねえよ。どうせ何もありゃしないんだから。ドーナツでも食いながら行こうぜ…」
そういうと太鼓腹を抱えて椅子から立ち上がり、ドスドス足音を立てて外へ向かった。若い警官もそれに続いた。
その後、ビルの家に到着した2人の警官は、バスルームの洗面台の下で殺害されたマークを発見し、ビルを逮捕した。ビルは正当防衛であるとして無罪を主張したが、家宅捜索により自宅近くの森の中から大量の小動物の死骸と人間のものと見られる骨が発見された。そのことについて取り調べられ関与を認めたため、裁判の結果殺人罪で無期懲役となった。
骨はDNA鑑定の結果ニューヨーク在住のステイシー·ジェイコブスという女性であることが判明した。以前ビルと交際しており、ビルの供述によるとお金の使い方について口論になって殺害したとのことだった。
膨大な資産はビルの意向で各地の慈善団体に寄付されることとなった。
取り調べでは落ち着いた様子ではあるものの、自分は常に強盗に狙われていると主張して譲らないため(そのような事実はないと地元警察とセキュリティ·サービス会社は断定している)、精神的に問題を抱えているとして弁護士は減刑するよう裁判所に要求している。
判決が下った際、ビルは何かが吹っ切れたような表情で
「これでもう強盗に入られることはない」
と呟いたという。
〈億万長者の小さな家 -完- 〉
億万長者の小さな家 マツダセイウチ @seiuchi_m
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