第4話

 バスルームに静けさが戻った。

 ビルはハァハァと呼吸を荒げて立っていた。深呼吸して気を落ち着け、一体どんな奴かと招かれざる客の顔を覗き込んだ。そして目を見張った。


「マーク…!!」


 そこにいたのはマークだった。胸部と腹部を3発ずつ撃たれ、即死だった。マークはぐったりと力なく座っていた。目は開いているがその目は何も映していない。まだ温かい血が滝のように流れ落ち、バスルームの床まで広がろうとしていた。


 なんてことだ。

 職場に呼び出されて帰ったはずじゃなかったのか?

 ビルは下唇を血が出そうなほど噛み締めた。


 分かったぞ、マークもそうだったのか。俺の金を狙っていたとは。学生時代の友人だったからと油断した俺がバカだった。殺してしまったが仕方ない。とりあえず警察にマークを引き渡そう。

 ビルは携帯電話を取り出し、911に掛けようとしたがやっぱり止め、地元の警察に掛けることにした。その方が警察が来るのが早いだろうと思ったからだ。


 予め登録してある番号を選び、耳に電話を当てる。何コールか鳴った後、若い男性とおぼしき警官が電話に出た

「ハロー、こちらビズマーク警察署です」

「強盗に入られました。すぐに来て下さい」

「分かりました。お名前は?」

「ウィリアム·ナッターズです」(ビルはウィリアムの愛称である)

「犯人と会いましたか」

「目の前で倒れています。鉢合わせたので身に危険を感じて銃で撃ちました。おそらく死んでいるでしょう」

「分かりました。今いるのはご自宅ですか」

「はい」

「すぐに警察官を向かわせます。そこにいてもらえますか」

「分かりました。お待ちしてます」


 プツン、と音がして電話が切れた。ビルは携帯電話をポケットに仕舞い、玄関に行ってシューズボックスに拳銃を片付けた。そしてリビングから椅子を一脚持ってきてバスルームに行き、洗面台の前に置いてマークを見張るように腰かけた。膝に両肘を付いて指を組み、その上に顔を固定した。有り得ないとは分かっているが、目を離したらマークがどこかに逃げていきそうな気がしたからだ。警察が来るまでそうしているつもりだった。


 バスルームは肌寒かった。ビルは両手で腕をさすった。マークの肌は灰色に近付き、もうすでにこの世の者ではないことを示している。

 今はもう止まりかけている血液が、時計の秒針のように規則的にポタポタと床に落ちた。マークから目を離さないまま、ビルは独り言を言った。


「やっと1人捕まえたぞ。良い気味だ。他の強盗への見せしめにしてやる」

 そういうとビルは青白い顔にうっすらと笑みを浮かべた。

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