第3話

 まだ日が暮れるには早い時間だったが、小さな森の中は薄暗かった。しかしライトをつける程ではない。白いサンダーバードがポキポキと小枝を踏みながら玄関前に停車した。運転席からビルが降りてくる。助手席に回り、トイレットペーパーと栓抜きの入った小さな紙袋を手にとって足でドアをバタンと閉めた。車の鍵をかけ、玄関に向かい、ポケットをまさぐってカードキーを取り出し、鍵穴にすっと差し込んだ。


 カチッと音がしてドアの鍵が開いた。玄関に入り、適当なところにトイレットペーパーと紙袋を置いて、ビルはシューズボックスを開けた。ここまではマークに見せたのと同じだ。だがさっきはやっていなかったことがある。ビルは手を伸ばして上段奥に入っていた頑丈そうな黒いケースを取り出し、シューズボックスの上に置いて留め金を外し蓋を開いた。中に入っていたのはコルト社製の拳銃だった。ビルは慣れた様子で拳銃を手に取り、安全装置を外した。さっきはマークがいたから遠慮していたが、ビルにとってこの拳銃は自宅をパトロールする際に必要不可欠な相棒だった。

宝くじが当たってからというもの、ビルは常に自分の財産を狙う何者かが家のどこかに隠れているという妄想に取り憑かれていた。

 

相手はどんな人間か分からない、丸腰では危険すぎる。俺の財産を狙う不埒な輩はすべて撃ち殺してやる。ビルはそう決意を胸にパトロールを開始した。


 階段下の収納、異常無し。トイレ、異常無し。それからキッチンの戸棚、冷蔵庫、ワインクーラーなど、絶対に人が隠れられないであろう場所も、扉がついていて中が見えない所は全てチェックする。リビングは大丈夫そうだ。次はバスルームだ。ビルはなるべく足音を立てないようにしてバスルームへ移動した。廊下とバスルームを隔てる白い木製の引戸をそっと開け、中を覗き込む。そして洗面台の下の収納を遠巻きに眺め、あることに気付いてぎょっとした。


 扉が開いている…。


 右の扉がほんの少し、5ミリほど開いていた。毎日家を空ける度にこの異常なパトロールをする、ビルにしか気付けない些細な変化だった。

 家を出る前は確実に閉まっていた。ビルの緊張感は一気に高まった。アドレナリンが放出され、心臓が誰かに聞こえそうなくらいバクバクと激しく脈打った。ビルはトリガーに指をかけ、気配を殺して洗面台に近づく。耳を澄ますと、微かに何者かが呼吸をする音が聞こえた気がした。


 間違いない。誰かがここに隠れている。隠れているということはやましい心のある人間である可能性が高い。きっと強盗だろう。俺を殺して財産を奪う気なのだ。そうはいくものか。ビルは扉を勢いよく開け、間髪入れず中に向かって発砲した。小さく静かな家で、銃声が6発響き渡った。だが外には聞こえなかったようだ。

 いや、ただ慣れているだけなのかもしれない。森の木々に止まった鳥たちは逃げもせず、呑気に囀ずっていた。

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