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昼——パーク周辺、外。俺の目の前にはえっちな格好の美少女がいた。
いつものことだが、と思ってしまった辺り、俺の日常は毒されている。
「期待はしてなかったが、まさか入口が見つかるとはな……ッ」
生足サンダルにマイクロミニのキュロット、肩出しのビキニトップにフロントリボンのベビードールを重ね着し、全体の色はパステルイエロー。今日はツインテで例の耳つきのヘアバンドをした天童墨華は、髪型といい着てるものといい心底楽しそうだった。
「僕はあると思っていたけどねっ」
昼。ガブリエルの土産を買ったりした後……パークの外でも一人で昼食というのは難易度が高いと思っていたら能力が発動し、『女子校から来ました♡』という中学生のグループとテーブルをご一緒していたが、そのなかでも一目でわかるほど——今日の、墨華はわかりやすい地雷(=かわいい)だった。
埋まっていなくて、ひらがなの振られた取り扱い説明書がついているくらいの地雷ファッション。
「けれどね彗星くん、入口はあったけど開いてないんだってさ」
「やっぱりかッ。ってことは、——」
「うん」
パークで買えるおやつを持ってきてくれた墨華はテーブルの反対側に、俺と向き合って一人で座っていた。——
「——もう一体いるッ」
第七十九層の踏査結果が出たと聞かされて俺は驚愕した。
天災を情報化し、エンターテインメント化された——〈ダンジョン〉。
規模まちまちだが、その最終層は八〇層から一〇〇層のどこか。各層ではどこかにいるボスを倒すと次層へ進むことができる。しかし前回、ボスを倒したにも関わらず回廊は行き止まりだった。
だから、もう一体いる。
「——」
十層刻みで敵が一段階強力になる仕様。攻略も終盤となる次層からは、層全体の規模や攻略難度もスケールアップする。なのに、三七〇〇万で終わるはずない——第七十九層の攻略は未だ完了していない。
「けど——だとしたら、どこにいるんだ? もう一体の方はッ」
「いないんだよ」
「いない? ……ッ」
「攻略は僕たちが一番進んでたんだ。価値のないグズどもより先にあの層は粗方踏破してた。いるんだったら見つけてなくちゃおかしいじゃないか?」
——何か知ってる言い方だった。
いない。
だとしたら?
ふわりとした薄いベビードールにうっすらと透けて、スク水の日焼け跡がついた背中を向けつつ墨華は立ち上がった。
俺を囲むようにして座っている中等部の女子たちから好奇の視線と、たまに体をつんつんされるのを俺は感じた。
「——ありがとう! 助かったよッ。ところで今日は随分と、かわいらしい格好じゃないかッ⁉︎」
「ッ⁉︎」
尋ねても教えてはくれないだろう。能力にかかってはいても、俺たちは助けあって生きていく間柄ではない。
だが——
テーマパークに夏休みの今、他のみんなが私服なのに一人だけ制服では来られなかったのだろう。自分の服の趣味を墨華が恥ずかしがっている(※IQが高く、自覚のある地雷ファッション女子)ことを俺は知っている。
「いたいた。あとちょっと、で……ファストパスの時かっ——」
——しかし頭上から声がして、俺は椅子を蹴って飛び退いた。
「なっ、なによ。あたしが来たからってそんなっ、別に何もっ……ッッ〜〜。そんな逃げようとしなくたっていいでしょ⁉︎」
「能力が効いてるんだよ! ——⁉︎」
その時墨華がちょっと嬉しそうにした——気がした。予想外の反応だがそれどころではない。
十倍くらい仕返しされている気分だった。
俺の能力は——第七十九層を攻略するまでの間、それは緋花の能力でもあるが——……一定以上の効果が発揮されるまで(※俺の場合、俺が緋花を大好きになるまで)、強度が無制限に上がる催眠という仕様らしかった。
日常生活も困難なレベルなのだがッ。というか、どうして今までみんなこの状態で俺と話せてたんだ——⁉︎
「これがいいんだ——?」
横から言われた俺は意識が墨華に向かい、一瞬緋花から気が逸れた。裾が軽く上向きに跳ねたキュロットのお尻を墨華がつきだすようにすると、ベビードールのリボンが扇情的にふわりとする。
「——それじゃ僕と同じだねっ」
◇
「また無視するっ〜、しかも逃げる⁉︎ それならもうっ……こっちにだって考えってもんがあるんだからッ」
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