——3


 一時間後、ビーチサイドの道路を走りながら俺は見知った集団を探した。向こうからは俺が見つけられることはない……はずだが、あんなに目立つ連中はそうそういない。この辺り一帯は砂浜だが、リゾートなんていう豪華なところは多くないし、考えることはわかっている。


「なんでこんなことに……! 効いてない奴は効いてない奴で、俺のことを叩くと音の鳴るおもちゃだと思っているッ。目って、死んだ後に部品単位でリサイクルされる奴があるか⁉︎ ——」


 程なくして、俺は問題のビーチに辿り着いた。そこでは本日、ティーン向け水着ブランドのショーが行われていて、遠くからでもわかる大量のフラッシュと美少女だらけの人垣ですぐにわかった。奴らはここだと——。



「——(この環境だと、確実に……全員に俺の能力が効くッ。他人事だと思って面白半分に——だが、行くしかない!)」



 ——


「——え?」

「すみませーん、お兄さん。今日はイベントでして、男性の方はちょっと入れないんですよぅ。うちの水着着て頂ける女性と一緒なら大丈夫でーす」


 行く? 行けなかった。ビーチの入口にあるブースを通ろうとすると、係員に俺は制止された……能力を駆使すれば、『この係員さんを誘って一緒に入ることができた気がする』が俺にそんな勇気はない。立ち尽くす俺がバカっぽく見えたのか、背後からビーチボールが飛んできて、頭に当たった。



「こら! ちょっと男子、何やってるの⁉︎」

「——?」



 ——振り返ると、スクール水着を着た女の子が二、三人の男子を追い払って、俺の方へ歩いてきた。同じクラスの友達か?

 傍に来ると、深々と俺に礼をする。あっ、と思った。


「すみませんっ! クラスのみんなで遊びに来たんですけど、男子がふざけて——それでっ」


 その女の子は、栗色の髪を二つお下げにした束を揺らしながら、両手を後ろにして恥ずかしそうに俯きがちで言ったが、この反応は……俺にはわかる。


「——あたしの友達が、そのっ。男子しかまだ来てなくて。学校のじゃない水着……今のうちに着てみたいな? とか思ったり。試着できるみたいなんです。あたしと、その……どうですか?」



 効いている。だが助かった。遠巻きに見ていた同じクラスの少年が一人絶望感溢れる表情になったが、もう遅い。

 しかし、無事に入口を突破して……ブランド水着の試着コーナーで、『あたし、日焼けしちゃってるから……似合うと思いますか?』と嬉しそうにする女の子と水着を選んでいると、予想外のものが見えた。


「こ、これ……かわいいですっ。かわいくないですか? でも、あたしじゃ——ビキニはっ」

「俺もそれ、すごく良いって思ったんだ! 似合うかはわからないけど、俺たち、趣味が合うんだな! ……(澪……?)」


 場所はやはりあっていたようだが、俺の方が先に到着していたらしい。随分混んできた入口のブースに澪が並んでいるのが見えた。まだ水着は着ていない。



「しっ、し試着してきます‼︎ 絶対似合ってみせますから。あっ。あなたもお着替えですか……? そ、そうですよね。水着にならないと——っっ、となり同士ではだかになるってなんだかドキドキしますね」


 ——何とかなりそうだ。間違えたつもりはなかったが、実際に澪を見つけると俺はほっとした気持ちだった。試着室は砂浜に等間隔で並んでいて、女の子の入った隣が空いているようだったのでドアを開け、そのまま一歩室の中に入った。


「ぇうっ! へ……ぇっ——?」


 ……つくづく思う。悪い方に奇跡は起こると。

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