冤罪が晴れて、本当によかったです。


 なら、自分で身を守るしかないじゃないですか?


 例えば、奪われると判っている商品を最初から劣悪な物にしておく、だとか。大して効き目の無い薬に換えておく、だとか……


 まぁ、それでも赤字なんですが。


 薬が効いていると思わせるように、痛み止めと感覚を麻痺させる薬を混ぜておいて……


 討伐や依頼の間に使用して、鈍った感覚と然程さほど治らない傷、あまり回復しない身体で……死ねばいい、とか?


 生きて帰って来たとして。飲み合わせが最悪な酒を飲んで、身体を壊せばいい、とか?


 身体を壊して、早く死ねばいい、とか?


 そういう風に思ってしまっても、仕方ないとは思いませんか?


 だって、ソイツが死ねばもう、売り物を奪われることも、脅迫されることも、暴力を振るわれることも、踏み躙られるようなこともありませんから。


 巻き添えになった人?


 ああ、それはお気の毒だと思ってますよ?


 けど、でも……その人達も、誰かから奪った薬を飲んだんですよね?


 冒険者って、回復薬関係は自分で用意するのが常識じゃないんですか?


 ほら? 知らない人からもらった物は、不用意に使用しない。自衛の一環ってやつですよ。


 誰かから奪った薬を、効能も知らない薬を、安全だという確証の無い薬を、飲んだのはその人自身ですよね? 自分で。


 信用できない物を自ら口にした、自己責任ってやつじゃないんですか?


 恨まれていてもおかしくない相手から奪った薬を、効能もよく知らない薬を、誰かに譲った。


 昨日の事件って、そういうことですよね?


 それ、俺が悪いんですか?


 俺、長年に渡って脅迫されて、商品を大量に強奪されていた被害者なんですけど?


 商品の説明義務?


 強盗に商品の説明をする商人って、います?


 それに、騎士様が見せてくれた薬の一部は、確かに俺の作ったポーション擬きですけど。中に、俺が作った物じゃない物が幾つも交ざってますよ。


 なに驚いてんです?


 さっきから言ってるでしょうに?


 冒険者崩れの犯罪者が幅を利かせてるって。


 そういう連中に、死んでほしいと思ってんのは俺だけじゃないんですよ。


 武具屋は、わざと武器や防具が壊れ易くなるように。急所を覆う部分が脆くなるように細工を。食べ物屋や宿屋は、ギリギリ腐っていない物を。または食中毒が起きることを願って、加熱が必要な食べ物にわざと確り火を通さない。


 薬屋は、粗悪品のポーションを……


 ひひひひっ……


 なにを喜んでいる、ですか?


 ああ、いえ。冒険者崩れの犯罪者が減ったことが嬉しくて。


 ひひひひっ……


 弱い立場の人間だと、これくらい些細なことしかできないもので。


 まぁ、いずれにしろ、いつかは死んでいたと思いますよ?


 だって、連中を恨んでいるのは俺だけじゃないですから。


 ――――え? もう、帰っていい?


 ありがとうございます。助かります。


 冤罪が晴れて、本当によかったです。


 では、失礼しますね。


 え? もう、ここに来るなって?


 ひひひひっ……


 俺も、是非ともそうしたいんですけどねー? でも、ほら? 俺、ひ弱そうに見えるらしくって。


 よく、商品を強盗されちゃうんですよ。


 そして、強盗した相手がなぜか、よく死んじゃうみたいで……


 ええ。勿論、俺はなにも・・・してません・・・・・よ? ええ、はい。俺自身は、ね?


 商品を強奪されている被害者ですから。


 勝手に持って行ったポーション擬きが、あまり身体によくないってだけの話です。


 いえいえ、代金を払ってくれるお客さん・・・・には、都度商品の説明をしていますって。ええ、お客さん・・・・には、ですが。


 その説明を、ちゃあんと守っていれさえいれば、害はそんなにありませんよ。


 ただ、そもそも薬というのは、元が毒と紙一重ですからね。毒をもって毒を制す、それが薬の効能の真実なんですよ。


 ひひひひっ……


 騎士様も、気を付けた方がいいですよ。


 恨みを買わないように――――


 ひひひひひひひひっ……


■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 容疑者の薬屋は粗悪なポーションの製作者のうちの一人として、厳重注意をして釈放された。


 容疑者の供述通り、死亡した冒険者は詐欺、脅迫、強盗の常習犯で、方々から恨みを買っていた。


 死亡した冒険者二人は、容疑者の薬屋が言っていたように、様々な店で脅迫行為を常習、彼らから繰り返し搾取していた。


 そして――――薬屋の彼の言っていた通り、冒険者の装備品や所持品は酷い有様だった。


 切れ易くなっていた剣帯。

 ほんの少し、剣が抜け難くなっていた鞘。

 少しの衝撃で柄がぐら付く剣。

 急所の部分が脆くなっていた防具。

 柔らかくて曲がり易い金具のベルト部分。

 腐り掛けや、毒物の混ざった非常食。

 粗悪品のポーション。


 そのどれもが、致命的になり得る。


 この酷い装備品では、あの冒険者は本当にいつ死んでもおかしくはなかった。これまでよく無事だったものだと、ある種の感動すら覚えてしまう。


 それから――――


 薬屋の聴取で気になり、様子を見に行った店の店主達は皆、一様に嬉しそうな顔をしていた。


 そして、一つ。気付いてしまった。


 腕の良い冒険者が生き残り、手柄を立てるのは当然だが・・・


 素行が悪く、悪辣な行為を繰り返す冒険者は、早死にすることが多い。


 それは、もしかして――――


 いや、これ以上は考えるのはやめにしよう。


 脅されていた店の店主達も言っていた。『自分達がうっかりしていた』と。『普段のお客さん・・・・には、絶対にこんな致命的なミスは起こさないのに』と。


 『お客さん達・・・・・に、なにかあったら大変なので、これからは気を付ける』と。


 笑顔で、そう言っていた。


 おそらく、ちゃんと代金を支払う普通の客・・・・には致命的なミス・・・・・・を犯すことは無いのだろう。


 そう、恨みを買うような真似をする連中が悪いのだから・・・


 容疑者として事情聴取をしたあの薬屋は、冤罪として釈放された。


 真っ黒、ではあるけれど。


 死亡した冒険者二人は、事故として処理された。


 昔から、劣悪な装備品で依頼を受け、引退を余儀なくされる者や、命すらも落とす冒険者は多い。


 中には、稼げない底辺の冒険者で、真実不運な事故だった者もいるだろう。


 だが、おそらくはこのようにして――――


 悪辣な冒険者達は密やかに、けれど致命的な報復にって、淘汰されて来たのだろう。


 これからも、きっと・・・


 鼻摘み者で悪辣な冒険者の死亡事故・・は、淘汰案件・・・・と称されることがあるという。


 調査はされるが、余程のことが無い限りは、誰も捕まらないのだそうだ。


 ――おしまい――


__________



 読んでくださり、ありがとうございました。


 憎まれっ子は世にはばかるけど、同じ奴がはばかり続けられるワケじゃないよなぁ……と。


 ⚠ちなみに、痛み止めに限らず、薬などはお酒と一緒に飲むと大変危険です。下手をすると死に至ることもあるので、薬の成分が体外に排出されるまでは、飲酒は避けた方がいいです。


 ※書いている奴は犯罪行為を推奨しているワケではありません。その辺りは、ご理解ください。


 感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。

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淘汰案件。~薬屋さんは、冤罪だけど真っ黒です~ 月白ヤトヒコ @YATO-HIKO

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